ID番号 | : | 04319 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 三協化成事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 職務怠慢、勤務成績不良を理由とする解雇につき、使用者が指揮命令権を行使しても職務の実をあげるように是正することはもはや期待できず、当該従業員を職場から排除しなければ適正な経営秩序が保てなくなるに至った状態でなければならず、右解雇を無効とした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度 |
裁判年月日 | : | 1968年12月19日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和41年 (ヨ) 3025 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部却下 |
出典 | : | 労働民例集19巻6号1587頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕 以上の事実にもとづいて、申請人の行為が、就業規則第五五条第二号所定の事由にあたるか否かを考えてみよう。 まず、同条項には普通解雇事由として、「甚しく職務怠慢か又は勤務成績劣悪で就業に適していないと認められた場合」と定めていることは、当事者間に争いがない。そして、この趣旨は、職務の実をあげない程度が、単なる職務怠慢や勤務成績不良と評価されるだけではなく、使用者が指揮命令権を行使しても職務の実をあげるように是正することはもはや期待できず、当該従業員を職場から排除しなければ適正な経営秩序が保たれなくなるに至つた状態、を指すと解される。 そして、二の(2)記載の申請人の研究態度および(4)記載の申請人につき研究員設置を拒絶された事実は、勤務成績不良にあたる。すなわち、会社は申請人に対して、雇傭契約にもとづき指揮命令権を行使して労務提供義務の履行方法として、工研所員の指導にしたがつて研究するよう命じたものであるから(もちろん申請人も、かかる給付方法をとることに同意している。)、申請人には工研所員から雇傭契約上の指揮命令権を行使されることはなくとも、工研所員の指導に従うべきことは会社に対する関係で雇傭契約上の義務なのである。しかも、工研にあつては会社の指揮命令権も直接に働かないし、また工研は会社に研究や技術指導につき枢要部分を担当していることを考慮すれば、会社で勤務するとき以上の自律性や研究成果が期待されているのである。しかるところ、前記申請人の研究態度は工研所員の指導にしたがつた誠実な業務遂行とはいえず、また前記研究員設置の拒絶もその直接的縁由がどこにあるかはともかくとして、基本的には申請人の研究態度の悪さに由来しているものと認められる。 そこで、勤務成績不良の程度について考えてみよう。被申請人はこの点につき、申請人は研究員として雇傭したものであるから、研究者としての適性を判断すべきである旨主張するのであるが、そもそも会社程度の規模の生産企業体において、技術者を雇傭して研究業務に従事させたからといつても、特段の事情がないかぎりは研究員という職種だけに限定して雇傭したものではないと認めるのが相当であるし(はたして真正に成立したことにつき当事者間に争いがない乙第二二号証の一によれば、研究部と他部門との交流も相当数見受けられる)、しかも会社は申請人に対して、雇傭契約の内容には変更がないことを当然に前提とし、指揮命令権を行使して研究員からかなり職種の異つた営業部販売課に配置転換してその業務に従事させたものであるから、いまさらこれを翻して申請人を研究員だけの職種に限定して雇傭した旨主張したところで、その主張はとうてい採用することができない。したがつて、申請人につき従業員としての業務適性を判断するためには、研究員としてのみならず生産技術者、さらには営業部員としての業務適性をも考慮する必要がある。 そうすると、まず二の(1)、(2)記載の事実によると、会社は申請人について、大学三年次の終りごろから入社することを前提にして、AやB主任を通じて身近にあるいは研究生活をともにしながら、その人物や研究能力等を観察して来た。そして、その間同人の性行には不満をおぼえたこともあつたが、奨学金まで貸与して勉学を援助し、大学卒業後はさつそく雇傭して、研究部第一課から工研の委託研究員という会社の技術者では枢要と思われる業務に従事していたこと、B主任においても申請人の能力や科学知識にはさほど問題を感じていなかつたこと等の事実を総合して判断すると、申請人の能力や学識については他よりも特に劣悪であるとは考えられず、かえつて会社は、この面では申請人を嘱望していたようでもある。また、二の(2)記載の申請人の研究態度上の問題点は、いずれも研究員職種の業務適性に深く関係するものであつて、この自律的で非定型的な業務を遂行していたからこそ発現されたものと思われ、したがつて指揮命令による他律性と定型性の強い生産技術者業務や営業業務等に従事した場合、はたして申請人は右問題点を発現したかどうかはうたがわしい。また、申請人につき工研から研究員設置が拒絶された点についても、二の(2)(3)(4)記載の事実によれば、工研においてはどの程度にまでこれを拒絶すべきだと考えていたかは多分にうたがわしいうえ、二の(1)記載の事実を考慮しても右拒絶によつて業務遂行に支障をきたすであろうと思われる職種はせいぜい研究部員だけであつて、他の職種にはほとんどその影響はないと思われる。 これを要するに、申請人には、就業に適しないと認められるほどに甚しい職務怠慢や勤務成績不良はなかつたというべきであるから、就業規則第五五条第二号に該当しないものと断ずべきである。 |