ID番号 | : | 04331 |
事件名 | : | 損害賠償等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 灘郵便局事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 組合員が勤務時間中、リボンを着用したまま勤務についたことにつき郵便局長がリボンの取りはずしを命じたところ、右取りはずし命令に従わず訓告処分とされたのに対し、右処分を違法として国に損害賠償(慰謝料)の請求がなされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働組合法8条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 処分無効確認の訴え等 |
裁判年月日 | : | 1967年4月6日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和39年 (ワ) 379 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働民例集18巻2号302頁/時報479号23頁/訟務月報13巻5号538頁 |
審級関係 | : | 控訴審/03429/大阪高/昭51. 1.30/昭和42年(ネ)650号 |
評釈論文 | : | 橋詰洋三・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕176頁/後藤清・判例評論103号33頁/山本吉人・月刊労働問題111号94頁/深山喜一郎・季刊労働法65号63頁/川口実・法学研究〔慶応大学〕40巻11号92頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-処分無効確認の訴え等〕 勤務時間中の組合活動が原則として禁止されることは、労働者は勤務時間中使用者のために完全に労務を提供しなければならない雇傭契約上の義務を負担していることから、むしろ当然というべきであるが、しかし一切の例外を許さないものとは解されず、労働者が労働法上保障された労働基本権を行使する場合で、しかも労働者が雇傭契約上の義務の履行としてなすべき身体的精神的活動と何等矛盾なく両立し業務に支障を及ぼすおそれのない組合活動については例外的に許されるものと解するのが相当である。そして右就業規則第二七条は一般原則を定めたものであつて右の例外を許さない趣旨とは解されないところ、原告らの本件リボン等の着用による組合活動は、前記(イ)で判断したとおり、憲法及び公労法上認められた勤労者の団結権の行使としてなされた一種の示威活動であつてその必要性が認められ、しかも郵政事業における原告らの業務内容と現業公務員たる地位身分に照らし、原告らが国に対して負担する身分上業務上の義務(国家公務員法第九六条第一〇一条等、ただし無定量の忠誠義務ではない)と何等矛盾なく両立し、その業務及び公共性に支障を与えるものでない(もとより争議行為、怠業的行為に当らない)と認められるので、原告らの本件リボン等の着用による組合活動は就業規則第二七条の違反とはならないものと解する。 (中略) 被告は、上司から職務上の命令が出された以上、部下職員はその命令が一見明白に違法と認められないかぎり、行政機構の組織的一体性から、これに従う義務がある旨主張し、成立に争いない乙第五号証によると、郵政省では運用通達(郵人管第三八号、昭和三六年二月二〇日付)により、右のとおり運用されるようかねて指示されていることが認められる。しかして原告らの上司である灘郵便局長が原告ら下部職員に対して、就業規則違反の行為がなされたと認める場合に監督業務の遂行としてその是正を命じ得ることはいうまでもない。 しかしながら以上の認定によれば灘郵便局長のなした本件リボン等の取りはずし命令は就業規則第二五条第二七条の解釈適用を誤つた結果なされたもので違法な命令といわなければならない。そこで右命令に対する原告らの遵守義務につき考察するに、なるほど被告の主張するとおり、管理者が下部職員に対しなした業務に関する職務命令については、その違法が客観的に明白でない限り下部職員はその命令に従うべき義務を負うと解すべきことは、行政機構の組織的一体性から是認すべきことである。しかしながら原告らの本件リボン等の着用は前認定のとおり何等業務及び公共性を阻害せず、かつ服装規定にも反しないささやかな組合活動であつて公労法上違法性のないものであるところ、灘郵便局長のなした右リボン等の取りはずし命令は労使対等の原則の作用する労働条件改善に関する労使間の団体交渉中に原告らの右組合活動に対抗してなされた命令であるから純粋(固有)の業務命令と解しがたい面があり、原告らの本件リボン等の着用が禁じられた組合活動であるかどうかは不可侵性をもつ労働基本権との関連をもち、もし正当な組合活動であるならば使用者側の不当介入を生ずる問題であるから、右のような職務命令については、その命令が違法でそのために無効とされる場合には、その違法性が一見明白といえない場合であつても、これに従わなかつた下部職員に対し命令不服従の責を問うことはできないものと解すべきである。 |