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ID番号 04351
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本鋼管事件
争点
事案概要  いわゆる「ハガチー事件」に参加して暴力行為等処罰に関する法律に違反して逮捕、起訴されたことを理由として懲戒解雇された従業員がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法2章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
裁判年月日 1967年10月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ヨ) 2173 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労働民例集18巻5号991頁/タイムズ215号79頁
審級関係 控訴審/01744/東京高/昭44. 4.15/昭和42年(ネ)2349号
評釈論文 花見忠・労働経済判例速報644号25頁/菅野和夫・ジュリスト417号136頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 使用者が従業員に対し解雇その他の懲戒処分を課するのは、これによつて企業の規律を維持する必要があるため使用者に残された指揮命令権を根拠として是認されると解されるとともに、労働者の企業との関係は、ただ労働契約に基き労働力を提供する地位にあるだけであるから、使用者の懲戒権は本来、就労に関する規律と関係のない従業員の私生活上の言動に及び得るものではない。もつとも、従業員は労働契約関係に伴う信義則の要請により、私生活上においても企業の信用を損い、また利益を害するような言動を慎しむべき忠実義務があると解されるから、従業員の私的言動といえども、それが右のような忠実義務に違反し企業の運営に悪影響を及ぼし、または及ぼす虞がある場合には、その限りにおいて、懲戒権が及び得るであろう。しかし、その場合でも、右言動が本来、企業の規律から自由な私的生活の領域で生じたものである以上、これに対する懲戒権の行使については、自ら限度があるべきであるから、就業規則または労働協約の定める懲戒条項の趣旨についても、さような見地に立つて合理的に解釈しなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 就業規則九七条(労働協約三八条)一一号が懲戒解雇または諭旨解雇の事由として定めた「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」というのもまた、会社の従業員が社会的に不名誉と目さるべき非行を犯し、これによつて客観的にみても企業の秩序ないし規律の維持と相容れない程度において会社の体面、すなわち企業としての社会的信用ないし名誉を現実に著しく傷つけ、その結果、社会通念上、使用者たる会社に当該従業員との雇傭関係の継続を期待するのが困難な事態を生じさせた場合を意味し、従業員の私生活上の不名誉な行為は、その限りにおいてだけ、右懲戒規定に該当することがあるにすぎないものと解するのが相当であつて、これと相容れない被申請人の見解は採用しない。
 (三) しかるに、申請人らのハガチー事件における前記行動は、これにより申請人らに暴力行為等処罰に関する法律違反等として刑事罰が加えられ、もちろん社会的非難を免れ得ないものとはいえ、その目的、動機並びに侵害法益に徴すると、直ちに会社の企業秩序ないし規律の維持と相容れない性質のものとは解し難い。また、原告らの行為自体もしくは、これが会社の従業員の行動として報道されたことにより、会社がその企業体としての社会的信用または名誉を現実に著しく害されたことを認むべき疎明はない。