全 情 報

ID番号 04353
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 松下電器産業事件
争点
事案概要  作業時間中に組合活動のため他の職場に立ち入り、当該職場の責任者の退去命令に正当な理由なく従わず、同人に暴行のうえ傷害を与えたとして解雇された者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1967年10月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ヨ) 2115 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集18巻5号1043頁/タイムズ218号228頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-暴力・暴行〕
 申請人は、被申請人は申請人の本件不退去、暴行行為につき、三日間の出勤停止処分に付したうえ、さらに解雇の意思表示を行つたもので、右意思表示は同一行為に対する二重の処分であり、解雇権の濫用であると主張するので、この点を検討するに、成立に争いがない疎甲二一号証、証人A、同B、同Cの各証言、申請人X本人の供述によれば、被申請会社ステレオ事業部東京工場長代理Aは、昭和三七年一〇月一五日、申請人の前記行為につき三日間の出勤停止処分に付する旨を前記東京支部組合に通告したこと及び同日申請人は直属上司であるD第一班長から三日間の出勤停止処分を言渡されたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。しかし、右A東京工場長代理又はD班長がこのような権限を有していたと認むべき証拠はないのみならず、却つて、疎乙二号証、成立に争いがない同三号証、証人Eの証言、および同証言により成立を認めうる疎乙一五号証、証人Fの証言を総合すれば、被申請会社の従業員は、その就業規則四九条一項により、正社員と臨時社員に区分され、さらに正社員は社員、社員補、准社員に区分されること、申請人は准社員であること、被申請会社作成の「社員就業規則疑義解釈集」により、准社員に対する出勤停止の懲戒権は、事業部長かあるいは営業所長が有するとされていること、東京工場はステレオ事業部に属し、且つ、営業所ではないこと、がそれぞれ認められるから、申請人に対する出勤停止の懲戒権は、ステレオ事業部長がこれを有するものと解するほかなく、A東京工場長代理やD班長には前記のような権限はないものと断じなければならない。しかも、証人E、同Gの各証言、申請人X本人の供述によれば、申請人は前記通告、言渡の後も、就業時間中に就業規則を読まされたり、始末書を書かされたりしたことはあつても、積極的に就労を拒否されたとか、賃金が差引かれたという事実がないことを認めることができる。以上を総合して考えれば、A東京工場長代理らが、前示の如き通告、言渡をしたので、申請人あるいは東京支部組合に対し、本件行為については既に出勤停止処分が行われたという印象を与えたことは否定できないが、右はA工場長代理らの越権行為でその効がないのみならず、事実上も申請人主張のような出勤停止処分は現実に行われなかつたものといわざるをえず、右処分の行われたことを前提とする申請人の二重処分の主張はその前提を欠く点において失当として排斥を免れない。よつて、二重処分を理由とする解雇権の濫用の主張も理由がない。
 (中略)
 以上認定したところによれば、申請人には、一方において就業規則に定める解雇事由が存するのみならず、他方申請人主張のような解雇無効の理由が存しないのであつて、結局本件解雇の意思表示は有効であると解するほかなく、しかも右解雇は労働者である申請人の責に帰すべき事由にもとづくものというべきであるから、申請人と被申請人の間の雇傭契約関係は、解雇の意思表示が申請人に到達した日である昭和三七年一一月一二日限り終了したものというべきである。