全 情 報

ID番号 04358
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 精工化学事件
争点
事案概要  庶務会計担当の女子職員が帳簿の誤記、私用電話、休憩時間中の無届外出などを理由に適格性を欠くとして解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1967年11月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (ヨ) 2216 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 時報511号72頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 申請人が計算を誤って帖簿または報告書類に数字上の誤記をしたこと(前記(二)の1の所為)は経理事務を担当する職員としては極力避けなければならない過誤であるというべきであるが、さきに説示したように、その頻度および原因につき申請人を咎むべき事実が存したことの疎明はないから、右執務上の過誤をもって申請人の経理事務担当能力を疑うのは早計であって、もとより申請人が右業務に不適当であると認める根拠とはなし疑い。
 次に申請人が就業時間中に会社の電話を利用して私用を果したこと(同2の所為)は会社の従業員として就業時間中は執務に専念すべき義務に違背するものというべきであるが、さきに説示したところから明らかなように、右所為によって申請人の執務自体もしくは志村工場の業務運営全体に支障が生じたことは勿論、その頻度が目に余り放置するに耐えないものであったことの疎明はないから、右私用通話を咎め立てるのは酷にすぎ、もとより、これをもって申請人が事務職員として不適格であると認むべき筋合はない。
 また、申請人が昼の休憩時間に誰に断ることもなく外出し、時には午後の作業開始に遅刻したこと(同3の所為)は作業開始に遅刻した点において会社の従業員としての就労義務に違背するものというべきであるが、これによって右工場の業務が渋滞したことは勿論、放置し難いほど職場秩序が乱されたことの疎明がないことは、さきに説示したとおりであって、直属の上司たる工場長において注意を与えれば足りたものと考えるのが相当であり、まして、これをもって申請人の事務職員たるべき適格を一般的に否定すべき根拠とはなし難い。なお、申請人の外出が無断であった点においては会社が休憩時の外出につき届出制を採用していたことの疎明がない以上、労働基準法三四条三項が採用した休憩時間の自由利用の原則に照して、これを咎むべき筋合がない。
 次に工場長が無断欠勤の従業員に、そのやむを得なかった事由につき物証の提出を求めたところ、申請人がこれに介入する発言をしたこと(同4の所為)は従業員として行きすぎであって、その場でたしなめられても仕方がなかったものというべきである。というのは、従業員の無断欠勤は正当の事由がない限り、就労義務の違背であるのは勿論であって、会社において、さきに説示したように、これを懲戒事由とし、したがって工場長が無断欠勤の正当事由を究明しようとしたのは、いずれも使用者として当然の措置であり、これに対し一般従業員が介入するのは余ほどの事情があるなら格別、さもない以上、当然には許されることではないからである。もっとも、会社において欠勤日を従業員の申出により年休に振り替える制度が存したことはさきに認定したとおりであるが、会社が正当の理由の備わらない無断欠勤を単純に年休に振り替えて済まさなければならない理由はないから、申請人が無断欠勤の理由を論外に置き、工場長の処置だけを問責するような発言をしたことをもって正当視することはできない。ただしかし、申請人の右所為は、さきに認定した事実から推しても上司に対する意見具申の域を出なかったものと認められるとともに、これによって工場長の業務遂行に支障が生じたことの疎明がないことはさきに説示したところによって明らかであるから、右所為の故に申請人を問責するのは酷にすぎ、まして申請人の事務職員としての不適格性を肯定すべきものとは考えられない。
 したがって、以上の諸点はいずれも会社の就業規則が定める前記解雇事由に該当しないものというべきである。