ID番号 | : | 04368 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 全日本空輸事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 定期運送会社の労働組合が賃上げ等の要求貫徹のために行った争議行為が労調法三七条に違反する違法なストであるとしてこれを企画・実施した組合三役らが懲戒解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 労働組合法8条 労働関係調整法37条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1966年2月26日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和40年 (ヨ) 2209 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集17巻1号177頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕 ロ 一般に争議行為の時期・方法・範囲は、争議戦術の問題として労働組合の自主的な選択に委ねられているものと云えるけれども、これら争議行為の態様ないしその選択が、有利な労働条件獲得のための実効的手段であると云う争議行為本来の目的を越えて、企業の存立自体を危くする結果を招来し、或いは専ら使用者に対する加害を意図したものであるときは、右争議行為は労使間の信義則違背ないし争議権の乱用として違法なものと云うべく、このことは使用者に対する争議行為通知の時期に関しても同様である。 本件の場合についてみるのに、(イ)組合は四月一四日、一九日の二回にわたって会社に対し前記(一)(4)の通り争議行為の予告を行つており、殊にその後者においては、争議行為の方法(全員及び指名のストライキ)を明確にするほか、全員ストについては正確な実施時限を、中闘及び支闘指名ストについても蓋然的な実施期間を一週間前の予告をもつて明らかにしているのであるから、会社として起り得べきストライキに処して一応の対策を講ずる暇は与えられていたものと云える。そして、本件全員ストについては重ねてその前日に、又中闘指名ストの具体的実施については二時間前に予告されており、ただ午前〇時開始の支闘指名ストは当日午前九時頃になつて通告されているけれども、右通告の時刻は一般の就業開始時直後と推測されるから、右時刻まで通告がなされなかつたことをもつて、一途に組合の背信性の顕われとみるのは相当でない。これを要するに、組合が会社に対してした本件争議行為の通告は、その時期、内容において労使間の信義に反した不当なものとは直ちに断じ難い。(ロ)本件争議行為の態様、特に中闘及び支闘指名ストの具体的通告が開始の直前又は事後になされたことによつて、一般のストライキから生ずる通常の損害以上に会社が特別の実損害を蒙つた具体的事実については、その主張も疎明もない。のみならず、右指名ストについても前記の通り会社において一応準備対策を講じ得る程度の概括的予告はなされているのであり、上記スト実施の態様によつて会社の業務上の支障、旅客の不便・不満がある程度加重されたことはあつたとしても、そのため企業の存立の基盤を危くする程の著しい信用喪失、その他の重大な損害が直ちにもたらされるものとは考えられない。(ハ)組合が運航便の乗員を除く従業員の大部分を組織しているとしても、本件争議行為につき前記のような態様をとることが、組合の要求貫徹のため全く実効のない非合目的な行為であるとは認められず、従つてこの点から本件争議行為に出た組合の意図が専ら会社に対する積極加害を目的としたものと云うことはできない。なお、組合が本件争議以前から会社側の争議行為予告に関する協定締結の要求を拒み続け、或は同一企業内の乗員組合の労働協約に右予告に関する条項が設けられていることを了知していた等の事情も、本件争議行為の態様に関して組合の害意ないし背信の意図を推測させる資料とはならない。 (三) 以上を総合して考えると、本件争議行為はその態様において、争議権の乱用にわたる違法なものと断ずることは困難である。 三 結論 (一) 以上要するに、組合の本件争議行為が違法不当であるとする被申請人の主張はその根拠がなく、従つて右争議行為を企画・実施したことを理由とし就業規則の懲戒条項を適用してした本件申請人らに対する解雇は、正当な争議行為を理由とするものであるから労組法七条一号、民法九〇条により無効である。 |