全 情 報

ID番号 04383
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 東洋化研事件
争点
事案概要  退職の意思表示をしている従業員に対して会社は懲戒に該当する行為をしている以上懲戒解雇をなしうるとして、懲戒解雇をしたうえ退職金の支払いを拒否したのに対して、右の者から退職金の支払いを請求した事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
民法627条2項
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
退職 / 任意退職
裁判年月日 1966年8月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ワ) 5131 
裁判結果 認容
出典 労働民例集17巻4号969頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
〔退職-任意退職〕
 就業規則は、第四八条において懲戒事由を列挙し、第四九条において懲戒処分の方法として「懲戒解雇」のほか「地位の格下げ」「休職」「減俸」等五種の方法を列挙しているだけで、いかなる場合に懲戒解雇に処するかにつき規定を欠くが、被告会社はまつたく自由に懲戒の方法を定めることができるわけでなく、その選択した方法が規律違反の種類、程度その他諸般の事情を考慮して著しく妥当性を欠く場合には、懲戒権の濫用的行使にわたるものとして、その懲戒処分は無効とされる。ことに、懲戒解雇の場合には、単に賃金収入の途が奪われるだけでなく、規程所定の退職手当金を受けるべき権利を失うことが就業規則第八条第一項(四)及び規程(成立に争いのない甲第三号証)第七条に規定されているので、懲戒に該当する非行をした従業員がすでに退職の意思表示をしているにもかかわらず、あえてこれを懲戒解雇するについては、その非行が当該従業員の多年の勤続の功を抹殺してしまう程度に重大なものであつて、そうすることが被告会社の規律維持上やむを得ない場合であることを要するものというべきである。
 四 (一)1 原告がAから受領した金額が一〇万円を超えることについては、これを認めるに足りる的確な証拠がない(証人Bの証言、成立に争いのない乙第四号証も、A証言、原告本人の供述と対比して、右認定の資料とするに足りない。)
 2 右金員の授受が原告の明示あるいは黙示の要求によるものであつたことを窺わせる証拠はない。
 3 C、Dの証言によれば、Aはガラス瓶の取引業者であるが、被告会社においてガラス瓶購入の際の発注先の選択、買入価格の決定等は、製造部資材第二課(課長高橋善治)の所管であつて、原告は右決定に関与せず、取引業者との交渉もないことが認められ、原告が上記金員の受領につき高橋その他担当従業員と意を通じたようなふしも窺われない。
 4 Aと被告会社との取引につき原告が特別の便宜を与え、又は被告が右取引によつて損害を受けもしくはその危険を生じたと認められる証拠はない。
 5 原告が前記金員を受領する以前に、被告会社において原告その他従業員一般に対し、関係業者から金品の収受をしないようとくに注意を与えていたと認められる証拠はない。
 6 被告会社の製造部長であつて、原告の直接の上司にあたるCは、その証言において、昭和三七年の渡米に際し会社の取引先から数万円を下らない金員を受領したことを自供しており、Dの証言、原告本人の供述によれば、他にも支社長や幹部社員が取引先から金品を収受しその他財産上の利益の供与を受けていることが窺われるけれども、そのためにこれら役員、幹部社員らが処分を受けたことはないことが認められる。
 7 その他原告の行為がとくに悪質であると認めさせるに足る証拠はない。
 (二) 右にみたところによれば、原告の前記金員受領行為は、その情状において極めて重大なものということはできず、これに対し懲戒解雇の処分をもつてのぞむことは、酷に失するきらいがある。
 なお、米本社が、原告の右所為につき懲戒解雇相当の見解を固持していたことがC、Bの証言から認められ、米本社においてはかような非行が重大な懲戒に値するものとして取扱われていることを窺わせるけれども、独立の法人である被告会社の企業規律の実態が前認定のようなものである以上、米本社における取扱いをもつて本件の場合における懲戒処分の基準となし得ないことは、いうまでもない。
 (三) 原告が被告会社の前身E会社に入社以来その勤務成績が極めて優秀であつたことは、C、Bの証言によつて明らかであり、本件懲戒解雇の約一週間前から原告がその非を認めないまでも自ら退職を申し出ていたことは当事者間に争がないところ、かような原告に対し数年も過去の上記程度の非行をとりあげ、敢えて懲戒解雇の挙に出ることは、被告会社における従前の規律状態に照らし均衡を欠くばかりでなく、将来の規律の維持、確立のため必要やむを得ない措置とも考えられない。
 五 以上により本件懲戒解雇は無効と解すべきところ、原告が昭和三八年五月八日被告に対し同月末日限り退職する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がないので、原被告間の雇傭関係は、民法第六二七条第二項により同月末日限り終了したことに帰する。
 したがつて、原告は、被告から、規程(その効力、内容、退職当時の俸給月額、勤務年数については、当事者間に争いがない。)により、自己都合による退職者として請求原因三(一)に記するとおり退職手当金の支給を受ける権利があり、その弁済期が退職の日であることは被告の争わないところである。