ID番号 | : | 04390 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 福田交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 他会社から移ってきたタクシー運転手が就業規則にいう臨時雇として雇用され、約一カ月後に前の勤務先での成績がよくなかったことを理由として解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度 |
裁判年月日 | : | 1966年9月30日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和40年 (ヨ) 4834 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 時報474号49頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕 前記就業規則はその七七条に懲戒解雇事由を列挙する外従業員の解雇について何らの規定をもうけず、本件全疎明資料によるも、解雇に関し、他に準則の存することを認め得ない。このような場合右規則が妥当性を有する限り、懲戒解雇事由のある従業員を解雇しうること勿論であるが、そうでなくとも他に解雇を相当とする合理的な理由があればこれを解雇しうることは雇傭契約の本来の性質上当然である。これを裏から見れば従業員を解雇しうるのは懲戒解雇事由がある場合か、その他の合理的な理由がある場合に限られることとなるが、試採用者については制度の本質上右合理的な理由の範囲が拡大され、単に従業員としての適格性を欠くことも亦解雇事由の一に加えられることは申請人が正当に指摘する通りである。 以上の見地から本件解雇の当否につき審案するのに、会社は解雇の理由として申請人の前勤務先であるA会社における勤務成績の不良を挙げる。 なるほど昭和三九年六月から同四〇年五月迄の間の申請人の同社における平均水揚高は八、一七〇円であること当事者間に争なく、これを右とほゞ同期間における同社全従業員の平均水揚高の額として会社が主張する九、〇四〇円(この額については当事者間に争があるが、かりに会社の主張をそのまま認めるとして)に比べ幾分少いことが認められるけれども、その差は一割にも達しないから、この一事をもって申請人の運転手としての能力熱意を決定的に否定し去る根拠とはなし得ない(もっとも会社における全従業員の右期間における平均水揚高が一〇、〇二〇円であることは当事者間に争なく、この額に比べれば申請人の右水揚高は相当低いことになるけれども、A会社と会社とでは勤務の条件を異にするので、右会社の水揚高を比較の対照とすることは妥当でない。)果せるかな《証拠略》によれば会社は昭和四〇年九月一日以前において申請人のA会社における勤務成績が標準以下であったことを知っていたものと推認されるにもかかわらず、同日何の故障もなく前記の如く雇傭形態を日雇から通常のそれに改めているのであって、このことは申請人のA会社における不成績を会社自身致命的なものとは考えず、試用期間中の成績如何により採否を決定する方針をとっていたことを示すものである。 そこで申請人の会社における勤務成績が問題となるのであるが、この間における同人の水揚高は昭和四〇年八月四日以降同月三〇日迄一〇、八四〇円(この額は成立に争のない乙一九号証により認められる)、同年九月二日以降同月二〇日迄一〇、四四〇円(その額については争がない)であって前記会社全従業員の平均額を上廻っていることが認められる。 以上の事実を総合して申請人に対する正しい処遇を想定するならば、A会社における成績不良にもかかわらず、その程度が軽少であることと、会社における成績が良好であることとにかんがみ、一応これを適格者として取扱い試用期間の経過と共に正式に採用することが、会社の右当初の方針にも適い従来の慣行にも合致する所以であると考える。しかるに事ここに出でず、たやすく申請人を解雇した会社の措置は前説示の合理的理由を欠き、解雇権を濫用したものといわざるを得ない。よって本件解雇は無効である。 |