ID番号 | : | 04416 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 北港パシフィックタクシー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー運転手に対する勤務中の飲酒行為を理由とする懲戒解雇につき、実は活発な組合活動を理由とする不当労働行為にあたるとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 |
裁判年月日 | : | 1965年4月16日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和38年 (ヨ) 2133 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部却下 |
出典 | : | 労働民例集16巻2号276頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 右認定した事実によると、前記事故の相手方及びホテルでの女性客はいずれも所謂街頭調査員であると考えられるから、申請人の乗客となつた二名の男客も街頭調査員ないしその依頼をうけた者と解するほかはない。従つて申請人主張のように、会社が特に申請人個人を指定して調査を依頼し、調査員が申請人に飲酒を挑発したという疑いもないわけではないが、前に説明したとおり右乗客二名は、申請人が国鉄関西線湊町駅まで他の乗客を運んだあとで同所から乗り込んでいるため、同人らが予て調査依頼を受けているタクシー会社の車を待合せ、偶々申請人の車を選んだと解する余地があり、他にこの点に関し、会社が街頭調査員に対し特に申請人個人を指定して調査を依頼したと認めるに足りる疏明はない。 しかしいづれにしても、右事故の相手方とホテルの女性客及び乗客らが街頭調査員であると認められる以上、会社と同人らとの間には、それが特に申請人個人を対象に指定したものではないにしろ、少くとも運転手の勤務状況についての一般的な調査依頼は受けているものと考えるほかはなく、そうだとすれば同人らが会社に宛て申請人の飲酒行為について殊更苦情を申入れ、又会社が取つて以て解雇事由となし、時を移さず解雇をほのめかしつつ退職を迫つている等前叙説示の事実関係を総合すると本件解雇の真の理由は他に存するにあらずやとの疑念を禁じ得ない。 五 しかして、申請人が昭和三六年二月以降本件解雇の直前まで、或いは組合役員として、昭和三八年三月組合書記長を辞任後もAの会社に対する解雇撤回斗争を支援するなど、常に組合活動の中心的存在として組合を代表し会社に対処してきたことは前に説明したとおりであるが、会社が本件解雇の理由として主張する事実は、前に述べたとおり単に懲戒解雇事由を定めた就業規則に形式的に該当するというだけで、具体的には飲酒するに至つた事情、飲酒時の状況、殊にその量が常識的にまま許容せられる程度に止どまり、道路交通法の酒気帯び運転や酒酔い運転にも一応該当しないと考えられるのであるから、これを以つて会社の経営秩序維持の必要上申請人をあえて企業から放逐すべき程の事由とはなし難い。このことは申請人が過去一〇年以上もの間タクシーの運転手として無事故、無違反で過し、会社でも優良運転手の部類に属している事実を考慮に入れるならば尚更である。 右事実に、本件解雇が前記Aの解雇撤回斗争の最中、殊にAから会社に対する地位保全仮処分申請事件において、申請人がA側の証人として出廷し、証言した直後に行なわれたものであること、会社が申請人の有馬での事故の相手方からの苦情申入れを、あたかも一般人からのそれであるかの如く装い、本件解雇の一事情として主張していること、会社は申請人の飲酒行為について直ちに有馬に赴いて事情を調査し、前記のようにそれが刑事上問題にされていないことを了知しながら、短期間のうちに懲戒解雇という極めて重い処分方針を決定していること、会社が当然前記のような申請人の組合活動を認識していたこと等を考え併せると、会社は、Aの解雇撤回斗争を中心とする申請人らの活溌な組合活動に対抗し、これを動揺させんがため、常にその中心となつて会社に対処してきた申請人を企業から排除しようとし、申請人の右飲酒行為に藉口して本件解雇を行なつたものと認めることができ、少くとも申請人の右組合活動が会社の本件解雇を決定する重要な動機となつていることは否定し得ない。 とすれば、会社は申請人の組合活動の故を以つて申請人に不利益な処分をしたといつて妨げないから、本件解雇は不当労働行為として労働組合法第七条第一号に該当し、無効である。 |