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ID番号 04503
事件名 損害賠償請求控訴事件及び同附帯控訴事件
いわゆる事件名 九州電気工事事件
争点
事案概要  高圧線の電柱建替工事中の感電事故において、作業者自身の過失も認められるが、現場責任者および雇用会社において過失が認められるとして、損害賠償を命じた事例。
参照法条 民法715条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1952年4月9日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和25年 (ネ) 75 
昭和25年 (ネ) 153 
裁判結果 一部変更・棄却,棄却
出典 下級民集3巻4号482頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 凡そ電気工事、わけても高圧線を架設した電柱の建替等の工事は往々にして危険が伴うので、かような工事に従事する電工は自己及び他人の危険を防止するため電流の遮断を完全にし、たといその遮断措置を終つても、思いがけない原因で流電することもあるから、架設電線は常にいわゆる生線だという心構えで、各自検電して電流の有無を確めるべきであつて、それが電工の常識である。しかしこのことは電気工事の現場責任者の注意義務を軽減するものではなく、いやしくも他の電工を指揮監督する現場責任者は、たとい一部の作業現場の責任者であつても、開閉器が完全に開放されているか否か作業現場の電線の電流が完全に遮断されているか否かについて、自ら検査するか、さもなくばなるべく経験の深い他の適当の電工を自ら指揮して検査させ、以て危険を未然に防止するため万全の注意をなすべき義務があるものといわねばならない。しかるに前記認定の事実によれば、Aは一部の作業現場責任者でありながら、第一号電柱に取付けた開閉器の入側引綱が電柱の足場釘に引つかかつていて、切側引綱を引いても手を放せば閉路に復する状態になつていたにかかわらず、引綱が足場釘に引つかかつていることにさえ気付かず、切側引綱を引いただけで漫然開閉器が開放されたものと軽信し、果して完全に開放されたか否かを確めるべき何等の方法を構じないでBに右開閉器の取付及び開放を終つた旨を報告し、Bも本件工事全般の現場責任者でありながら、Aの報告だけに信頼して第一号電柱の開閉器が果して完全に開放されたか否か第六号電柱への電流が果して完全に遮断されているか否かについて何等の検査もしないで被控訴人Yに前記高圧線の縛着状態の検査を命じたのは、いずれも現場責任者としての注意義務を怠つたものという外はない。又一般の電工も各自危険防止のため充分の注意をなすべきことは先に述べたとおりであつて、ことに高圧線の両線を両手で同時に握ることは電工の常識に反したもつとも危険なことで、高圧線の縛着状態を検査するため高圧線の両線を同時に両手で握る必要は全くないわけであるから、被控訴人Yがその検査のため第六号電柱の高圧線の両線を同時に両手で握つたことは同被控訴人の過失であることはいうまでもない。そうして本件事故は現場責任者たるB、A及び被害者たる被控訴人Yの叙上の各過失の競合による結果だと認むべきものであつて、被控訴人Yに過失があつたことはB等の過失の責任を否定する根拠にならないことは明である。
 次に控訴会社に被用者の選任監督について過失がなかつたか否かを審査するに、成立に争のない乙第十二乃至第十四号証、原審及び当審証人C、当審証人D、同Bの各証言によると、控訴会社は所属の電工に対し事故防止のため平素種々の注意を与えていたことは認められるが、それは電工の注意を喚起することを主としたもので、事故防止に必要な用具の供与その他物的施設に充分の注意監督をなした事実は認められない。且つ又満十八歳に満たない年少者を危険な業務に就かせることは労働基準法第六十三条によつて禁止されているにかかわらず、控訴会社は後に認定するように本件事故当時満十八歳に満たない被控訴人Yを高圧線を架設した電柱に登つてなすような危険な業務に就かせているのみならず、本件事故前にも同様の違反に関し所轄監督官署から始末書を徴されたこともある事実が認められるのであつて、控訴会社がその事業の監督について相当の注意をなしたもの又は相当の注意をなしてもなお本件事故が避け得なかつたものとは認められない。従つて控訴会社はその被用者たるB及びA等が控訴会社の業務の執行に際し過失によつて被控訴人等に加えた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。