ID番号 | : | 04510 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 岩倉組苫小牧事業所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 「A中学三年終了」を「B中学卒業」と詐称したこと等を理由として懲戒解雇された者がその効力停止の仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称 |
裁判年月日 | : | 1952年10月25日 |
裁判所名 | : | 札幌地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和27年 (ヨ) 145 |
裁判結果 | : | 一部認容,却下 |
出典 | : | 労働民例集3巻5号429頁/労経速報240号2頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕 およそ就業規則は使用者の一方的にこれを制定し得るものであるけれども、ひとたび客観的に定立せられたる後は一の具体的法的規範として使用者並びに従業員双方を拘束する客観的実在性を有する。従つて、就業規則を適用し懲戒解雇をなす場合には懲戒事由の存否の認定、懲戒解雇に処すべき情状の判定等につき、使用者は客観的に妥当な就業規則の適用をなすべき義務を負担し、その自由裁量に委せられるものではない。かかるが故に、使用者が就業規則の適用を誤つた場合には当該懲戒解雇は無効であるといわなければならない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕 申請人Xが被申請会社に雇い入れられるとき、鹿児島県A中学三年終了を同県B中学卒業と学歴を詐称したことは前記の如く当事者間に争がない。そこで右行為が就業規則の前記第五号「重要な経歴を詐り、その他不正な方法を用いて雇い入れられたとき」に該当するか否かについて判断する。一般に、近代的企業において、労働者が経歴を詐称して入社することは当該企業の経営秩序をみだし、企業の完全な運行を阻害する行為であつて、懲戒事由に該当するものといわなければならない。蓋し、使用者が、労働者を雇い入れるに当つては労働者の学識、経験、技能、性格、健康等について全人格的価値判断をなし、賃金、職種、地位その他の労働条件を画一的に決定し、以て当該企業の中のその労働力を組織ずけねばならないのであるが、かかる判断乃至組織ずけを行うに当つては、労働者の経歴が極めて重要な働きをなすこと、言を俟たざるところであつて、経歴の真偽は一に労働者の信義にまたざるを得ず、かかる信義の裏切られんか、労働力の当該企業における位置ずけ乃至組織ずけは大いなる過誤を伴い、経営秩序の維持、企業の完全なる運行は得て望むべからざるに至るからである。従つて、経歴詐称が使用者をして現実、具体的に労働者の労働条件の決定、又は重要なる採用基準の適用乃至労働力の位置ずけを誤まらしめたか否かは必ずしも重要ではない、使用者はかかる因果関係乃至具体的危険の発生を論ずることなく、唯、経歴を詐称して雇い入れられたとの一事を以て、懲戒の事由となすことができるものというべきである。これを本件について考えると学歴は人の経歴の中でも、重要な部分をなすものであり、就中最終の学歴は労働者の学識、経験技能等を判断するについての最大の要素である。従つて、申請人Xが前叙の如く、最終の学歴を詐つたことはまさに、前記就業規則第三十二条第五号「重要な経歴を詐つて雇い入れられたとき」に該当するものと判断せざるを得ない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕 およそ懲戒解雇における懲戒解雇該当事由の存在と、懲戒解雇に処すべき情状の存在とは車の両輪の如きものであつて、何れの一を欠くも懲戒解雇は成立しないものといわなければならない。本件就業規則第三十二条本文が「左の各号の一に該当するときは懲戒解雇する。但し、情状によつては出勤停止又は減給に処することがある。」と規定しているのはまさに、右の理を宣言したものというべきである。而して、本件において申請人等に形式的には懲戒解雇に該当する事由が存在するけれども、懲戒解雇に値する程、悪性の情状は存在しないこと前認定のとおりであるから、被申請人が申請人等に対し、減給又は出勤停止等の処分を全然考慮に入れることなく、一挙に、本件懲戒解雇に処したことは前記就業規則第三十二条の正当な適用を誤つたもので無効というべきである。 |