全 情 報

ID番号 04519
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 井上鉱業事件
争点
事案概要  水害のため事業継続不可能となったとして解雇された炭鉱労働者が会社都合による解雇であるとしてその支給事由に基づく退職金を請求した事例。
参照法条 労働基準法3章
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1953年9月15日
裁判所名 佐賀地
裁判形式 判決
事件番号 昭和28年 (ヨ) 47 
裁判結果 認容
出典 労働民例集4巻5号462頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 被申請人は右の如き天災事変による事業継続不可能のための解雇については本件退職規程に何等の定めがないから退職金支払の義務はないと主張する。その趣旨は本件解雇は礦員の自己都合による退職でもなく、会社都合による退職でもなく、又前記一般退職の五項目のいずれにもあたらないから、退職規程を適用すべき余地はないというのであろう。しかしながら前記一般退職の五項目は必ずしもこれを制限列挙的な規定と解さなければならない根拠はなく、むしろ一般退職の退職金額が原則規定であつて、自己都合又は会社都合のいずれにもあたらない場合は右原則に従うべきであり、前記五項目は原則規定を適用すべき場合を例示的に示したものと解するのが最も妥当な解釈であろうと考えられる。殊に証人A、B、C、D、Eの各証言により認め得られるように、本件退職規程が団体交渉の結果会社と組合との契約として締結せられたものであること、被申請会社においては右退職規程が作られて以来、会社の経理面において退職金引当積立金なる勘定科目を新に設け、出炭一瓲当り三十円位の積立金を計上し、本件解雇当時において右積立金は金百二十万円位の数字に達していたこと等の事実に徴すれば、本件退職規程に定められた退職金は単なる恩恵的なものではなく、労働に対する対価の一部たる性質をも具有するものと解せられる。そうだとすれば、天災事変による事業の荒廃のため会社側も重大な損失を蒙ることは予想されたとしても、本件退職規程の団体交渉において、当事者が天災事変の場合特に退職規程の適用を排除すべき旨を協定したものとは、とうてい考えられない。
 そこで本件の場合は礦員の自己都合による退職でないことは明かであるから、被申請会社は申請人等に対し少くとも一般退職の退職金の支払義務あるものといわなければならない。申請人等は会社都合による退職にあたるものであると主張するけれども、本件は前認定のように水害による事業廃滅が原因となつたものであつて、その点につき特に会社側に責を問うべき事実の存在については、これを認めるに足る疎明がないから、申請人等の右主張は未だ採用するを得ない。