ID番号 | : | 04531 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 川崎製鉄事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 「B大学専門部法科一年中退」を「小学校高等科」卒業と詐称することが経歴詐称にあたるとして懲戒解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称 |
裁判年月日 | : | 1956年7月30日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和31年 (ヨ) 178 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集7巻4号647頁/時報88号18頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 季刊労働法22号56頁/法と政治7巻4号109頁/労働経済旬報395号15頁/労働時報9巻11号24頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕 債権者がA学校を卒業しB大学専門部法科本科に一年在学したのにかかわらず小学校高等科卒業と詐称したことは前記認定のとおりである。このような学歴特に最終学歴は労働者の知能教育程度を判断する上に重要な経歴であることは疑いえないところである。従つて右の詐称は使用者が労働者に対する全人格的判断をする上に重大な影響を与えるというべきである。そうすると右学歴の詐称は就業規則にいう経歴の詐称に当るといわねばならない。 債権者は学歴を過少に申告したにとどまる場合は債権者の提供する労働は契約の趣旨に反しないから経歴の詐称に当らないと主張するが、使用者が雇傭に際し採否の決定をするのは前示のように企業に組織づけられる一員としての労働者の全人格的な判断の上に立つてのことであつて単に提供さるべき労働のみに着眼して評価判断するのではない。有機的な組織体をなす企業においてはその企業に組織づけられた労働者の具体的な労働の成果が問題なのであつてその組織を離れた一労働者の個別的抽象的な労働の良否は単にその前提をなす一要素であるにすぎない。従つてその組織づけを誤らせる結果となる行為はそれが学歴を過少に呼称した場合であつても過大に呼称した場合と同様に経営の秩序を乱し企業の生産性を阻害して企業に危険を及ぼすおそれがある。ただ過少に呼称した場合は過大に呼称した場合に比して企業に対する危険の度合が少ないことが多いであろうからその情状において考慮される場合が多いというにとどまる。そうであるから債権者の右の論旨は容れることができない。 而して成立に争のない乙第二号証の一によつて明らかなように債権者は雇傭当時未だ一九才にすぎなかつたから右学歴はその経歴中極めて重要な事項である点、前記認定のように債権者はB大学専門部法科を不正行為によつて除籍処分を受けた事実が存し同校在学の事実を秘匿することによつて右除籍処分の調査を妨げる結果をまねくおそれがある点及び成立に争のない乙第四号証に証人Cの証言によつて明らかなように会社においては学歴によつて採用の手続を異にしている点をあわせ考えれば右学歴の詐称は重大でありこのような場合会社が解雇をもつて処置することは一応正当と認められる。他に右認定の妨げとなる疏明はない。 三、解雇権の乱用であるとの主張について、 債権者が会社に雇傭されたのは昭和二四年一一月一七日であり本件解雇が同三一年四月二四日であることは前段認定のとおりであつてその間約六年半経過している。ところで就業規則によると懲戒事由の存するときでも情状によつて出勤停止にとどめる場合のあることはこれまた前段認定のとおりであるが、成立に争のない乙第八、第九、第一〇号証に証人Cの証言によると会社が債権者の右経歴の詐称行為を探知したのは昭和三一年に入つてからのことに属することが疏明されその後程なく本件解雇に至つたのであるから、本件詐称行為の重大性を考えるときは右六年半の日時の経過によつても未だ解雇をもつて臨むことが不当であるとは考えられず他に何等か本件解雇が解雇権の乱用にわたるものと認めうる疏明もない、従つて債権者の右の主張は採用できない。 |