全 情 報

ID番号 04532
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 合名会社根上製作所事件
争点
事案概要  会社を退職した労働者が、社則所定の退職金を請求したのに対して、使用者は右労働者は懲戒解雇されたものであり退職金は支払われないとして争った事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 1956年8月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和28年 (ワ) 10187 
裁判結果 一部認容,棄却
出典 労働民例集7巻6号979頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 被告は原告の退職は不都合な所為があつたので懲戒解雇をなしたものであるがかかる場合には社則第八十九条の規定により退職金の支給をなす義務がない旨主張するが証人A、同Bの各証言並びに被告会社代表者本人尋問の結果によつても僅かに被告会社がネガ複写機の製造販売を営み原告に販売代金の集金を費消し又競争会社の商品を販売した疑があるため原告を退職させることとしAを通じて退職を求めその結果原告が退職を余儀なくなされたことが窺われるに止まり右認定を超えて被告が原告に対する右疑につき確証を挙げこれを事由に懲戒解雇に付したことについてはこれを肯認するに足る証拠がないから被告の右主張は理由がない。
 従つて被告は前記社則の規定に従い原告に対し退職金を支払うべき義務があるものと謂わなければならない。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 そこで被告の支給すべき退職金の額について考えてみると被告会社代表者本人尋問の結果並びにこれにより真正に成立したものと認める乙第二号証によれば被告会社は従前社員に対し本俸に物価手当、家族手当、職務手当及び販売業務手当なる名目の金額を加えたものを俸給として支給していたこと、ところが昭和二十五年四月以降は本俸、手当の区別をなさず俸給の総額のみを示して支給するようになつたことが認められ更に本件原告並びに弁論分離前の原告Xの各本人尋問の結果によれば被告会社はその後社員に対し俸給の引上を承認した際においても本俸、手当の区別をなしてその月額を明らかにすることなく税抜の手取額を示したにすぎないことが認められるから特段の事情がない限り被告会社は昭和二十五年四月中税込の支給額を以て本俸とすることに俸給制度を改めたものと認める外はない。従つて社則第八十九条に謂う「本俸月額」とは従前においては前記諸手当を控除した税込の俸給一箇月分を意味したものであるが右俸給制度の改正に伴い税込の総支給額一箇月分を意味することになつたものと解するのが相当である。しかるに原告の退職時における俸給手取額が月額金二万五千円であつたことは当事者間に争がない。しかして原告は税込の本俸月額は金三万千円であつた旨主張するがこれを認めるに足る証拠がないから右手取額を以て退職金算定の基準としなければならない。よつてこれに前記勤続年数十一箇三百六十五分の百七十七を乗じその七割に当る金額を算出すれば金二十万九百八十六円三十銭となること計数上明らかである。してみると被告は原告に対し少くとも右金額の退職金を支払うべきものである。