全 情 報

ID番号 04533
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 板付基地事件
争点
事案概要  板付空軍基地において駐留軍労務者として勤務している者が保安上の理由に基づき解雇されその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条
日米安保条約3条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1956年8月10日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ヨ) 202 
裁判結果 認容
出典 労働民例集7巻4号690頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 先ず附属協定が申請人等主張のように就業規則と同様の性格を有するものであることは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争がないから、右協定に掲げる保安基準並びにこれに関する人事措置についての定めは、駐留軍労務者と日本政府及び米駐留軍との間においても拘束力を有するものであり、駐留軍労務者を保安解雇するには、右協定に定める所に依拠しなければならないものと解するのを相当とする。
 しかして疏甲第二号証によれば附属協定第一条a項において保安基準として、(1)作業妨害行為、牒報、軍機保護のための規則違反又はこのための企図、若しくは準備をなすこと、(2)アメリカ合衆国の保安に直接的に有害であると認められる政策を継続的に、且つ反覆的に採用し若しくは支持する破壊的団体又は会の構成員であること(3)前記(1)号記載の活動に従事する者又は前記(2)号記載の団体若しくは会の構成員とアメリカ合衆国の利益に反して行動をなすとの結論を正当ならしめる程度まで常習的あるいは密接に連繋することの三基準が掲げられていること、並びに、同条b項第三条、第五条c項ないしe項において、日本側の提供した労務者が第一条a項に規定する保安基準に該当するとアメリカ合衆国側が認める場合には米軍側の通知に基き最終的な人事措置の決定があるまで当該労務者が施設及び区域に出入することを直ちに差止めるものとし、右人事措置の実施細目として、(イ)米軍の指揮官が労務者が保安上危険であるとの理由で解雇するのが正当であると認めた場合には当該指揮官は米軍の保安上の利益の許す限り解雇理由を文書に認めて労務管理事務所長に通知し、所長は三日以内にそれに関する意見を通知する。(ロ)当該指揮官は更に検討した上、嫌疑に根拠がないと認めればその後の措置をとらないが、なお保安上の危険を認めた場合は上級司令官に報告する。(ハ)上級司令官は調達庁長官の意見をも考慮の上審査し、保安上危険でないと認めれば復職の措置を、保安上危険であると認めれば解雇の措置をとるよう当該指揮官に命ずる。(ニ)上級司令官から解雇の措置をとるよう命ぜられた当該指揮官は労務管理事務所長に対して解雇を要求する。(ホ)労務管理事務所長は当該労働者が保安上危険であることに同意しない場合でも、解雇要求の日から十五日以内に解雇通知を発しなければならないと規定されていることが認められ、右認定によれば(1)ないし(3)の保安基準に該当するかどうかの判断は一応米軍の主観的判断に委ねられているものであつて、保安基準に該当する事実が客観的に存在する場合に限定する趣旨ではないこと、従つてその主観的判断が客観的に妥当なものであることを要する趣旨ではないと解するを相当とする。ところで、本件解雇の理由となつている申請人等を引き続き雇傭することが米駐留軍の保安上危険である事実の存在については、証人Aの証言によつてもこれを首肯せしめるに足りず、他にこれを認めるに足りる疏明は存しないから、かかる事実はなかつたと認めざるを得ないのであるが、附属協定においての解雇権の行使について該事実が客観的に存在したか否かは問うところでないこと右説示のとおりであるから、その趣旨において本件解雇が附属協定に違反した無効のものといえないことは当然である。