ID番号 | : | 04540 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 新日本飛行機事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 争議行為としてタイムコーダー打刻を拒否した場合について使用者が賃金支払を拒否したのに対し、労働者が現実に労務に服した時間につき賃金を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法11条 労働基準法3章 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権 |
裁判年月日 | : | 1956年12月21日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和30年 (ワ) 998 昭和31年 (ワ) 304 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集7巻6号1161頁/時報102号35頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 季刊労働法24号92頁 |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権の発生-争議行為・組合活動と賃金請求権〕 被告会社は昭和二五年七月から在日米軍横浜兵器廠(同二九年七月一日以後は追浜兵器本廠)に対し、車輛及び部品の選別保管に関する役務を提供して今日に至つている。右役務の提供については、当初日本政府特別調達庁が米軍に対する役務提供の当事者となり、会社は特別調達庁と所謂調達業務契約を締結し、特別調達庁から報酬を受ける形態をとつていたが、昭和二五年九月以後は会社と在日米軍調達部との直接調達業務契約に更められ、以来右契約は今日迄数回改訂されている。右契約の改訂にともない、役務提供に対する米軍の報酬の内容も今日迄数回変更され、特別調達庁時代には「実費積算式」と称し、会社が実際に支払つた労務費または提供した資材諸経費に一定の利潤を加えた金額の支払を受けたが、在日米軍調達部と直接調達業務契約を締結するようになつてからは、「単価計算方式」をとり、会社が発送または受領する車輛部品資材等の需品量を重量に換算して一トン当りの単価の方式によつて支払われていた。しかし昭和二九年七月一日に始まる第七次調達業務契約においては、右方式は所謂「時間資材契約」(タイムアンドマテリアル方式)に更められ、会社の受ける報酬は会社が雇傭する従業員の実働時間に対して支払われ、別途に会社が提供または調達する少額の補助資材については実費算定方式をもつて支払われることになつた。そしてこの方式は第八次調達業務契約(昭和三〇年七月一日から翌三一年六月三〇日まで)においても受継がれた。この方式の採用にともない、被告会社と在日米軍調達部は第七次、第八次調達業務契約書の各第一項B項において「契約当事者は納入命令書に基いて詳細且つ精確な会社諸記録を作成管理し、労働時間は個人別の日々の作業時間を記入するタイムカードにより証明されることが必要であり、そのタイムカードには作業を行う労務者が署名するか或いはタイムレコーダーによつて時間を打刻するものとし、且ついかなる場合においても実際支払の証拠による裏付がなされなければならない」旨を約定し、右タイムカードについては在日米軍調達部からタイムレコーダーによる打刻だけによるよう指令され会社はこれに同意した。こうして以後、会社が米軍に対して役務提供の報酬を請求するについては、労務者のタイムカードの打刻が唯一の証拠となつたので、被告会社は昭和二九年七月一日就業規則を改正し、その第一六条において「従業員は出勤退勤の時刻をタイムカードに打刻しなければならない」と規定し、選定者等を含む会社従業員に対し出退時にタイムカードを打刻するよう指令し、達示回覧等をもつてその趣旨の徹底を計つた。 〔中略〕 そこで右認定事実に基いて考えると、第七次調達業務契約以後において、労務者のタイムカードの打刻は、被告会社にとつて報酬を請求する条件として極めて重要な意味を持つていたこと、選定者等を含む従業員は右事情を了知したうえ、会社の指示により、以後極めて少数の打忘者を除いて毎日この打刻を続けて来たのであつて、少なくとも昭和三〇年四月一日以後においては、被告会社と選定者等の間において、出退時にタイムカードを打刻することの合意が成立していたばかりか、これが労働契約の重要な要素をなしていたということができる。すなわち、従業員のタイムカード打刻は、その従業員が現実に勤務した時間を証明する手段にすぎないのが普通の例であるが、本件ではこれに加えて、会社に対し米軍から報酬を取得させるため、必ず履行されなければならない従業員の労務(一種の仕事)となつていたことがわかるし、このことが従業員の了知するところで、その趣旨で打刻の励行を命ぜられてきているものである以上、会社と従業員との間の労働契約においても、それは、他の長時間にわたる本来の労務と並んで、これに劣らぬ重要な労務の内容となつたものとみるべきである。それ故、右いづれか一部の労務の提供があつたとても、残る他の部分の労務の履行がないとなると、会社が報酬を取得できない点で、全然労務の提供がなかつた場合と同じであり、右報酬を得ることを本質的な目的として米軍に役務を提供している被告にとつては、前記一部の労務提供に価値を認めるに由なく、これをもつて、労働契約の本旨に従う履行とすることができないこと当然である。してみると、原告主張の各日選定者等がいづれも退勤時にタイムレコードの打刻を拒否したことは当事者間に争いのないところであるから、選定者等においてこれが履行を拒否した以上、かりに所定の時間所定の部所で労務に服したとしてもそれはなお労働契約の本旨に従つた履行がなかつたものといわなければならない。 被告はこの点につき、先づ右争議行為が違法であるから賃金を支払う義務がないと主張するが、争議の違法が直接賃金請求権を左右するものではないからこの主張は理由がない。 しかしながら選定者等の労務提供が右のとおり不完全であつて、被告会社に対し何の利益も与えず、全くの不履行と同視すべきものである以上、被告会社はこれに対する対価として賃金を支払う義務を負担するいわれがない。 |