ID番号 | : | 04542 |
事件名 | : | 慰藉料請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 木村屋総本店事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 洋菓子製造工がアイシングローラーという機械の操作中に右手をローラーに巻き込まれ負傷した事故につき使用者に損害賠償を求めた事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 慰謝料 |
裁判年月日 | : | 1960年1月26日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和30年 (ワ) 3789 |
裁判結果 | : | 一部棄却 |
出典 | : | 下級民集11巻1号112頁/時報217号24頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 被告会社側としては当時一七歳で機械について知識経験が充分とは到底認められぬ原告に対し右機械操作上の安全教育例えば清掃法についてはローラーを雑巾で拭く場合、ローラーの上部や内廻りする面を避け、別紙図面Aのローラーなら下部で、Bのローラーなら上部より外側で拭くとか、或は柄のついた雑巾を用いるとか指導し、以て災害予防のため具体的注意事項を教え込むことは条理上当然の義務というべきである。尤も右のような注意事項は他人から言われなくとも考えつきそうなことであるが、多少の危険を伴う程度であれば、手つとり早い方法を採りたがるのは一般の傾向で(右に述べた清掃法は安全だが、やや面倒な仕方であることは説明を俟たず明らかであろう)あるから、さようなことにならぬためにも、安全教育を実施すべきもので、原告らの注意力にのみ頼つて放任すべきではあるまい。ところが被告会社側にあつては誰かが原告に対し安全教育を施した事実を認むべき証拠がない。而して若し原告がさような教育を受けておれば、これに従つたであろうから本件事故も起きずに済んだであろうと推測される。而して証人A同Bの各証言によると、被告の会社では安全教育に関する社則があつて、新宿工場におけるその実施責任者は同工場長Bであることが窺われるところ、同工場長が原告に対し何ら災害予防のため安全教育をなさなかつた怠慢について、被告において被傭者たる右Bの選任監督につき相当の注意をなした事についての主張立証のない本件安全教育についての社則が作られているだけでは、相当の注意をしたと認められない)においては原告の蒙つた損害について、原告の不注意にのみ責任を負わせず、被告に於てもその損害の一端を賠償すべき責任があるものといわねばならない。 そこで進んで原告の蒙つた精神的損害の額について考えてみるに、前記傷害の程度、原告の年令、境遇その他当事者双方の社会的経済的地位原告が後記労働者災害補償の給付を受けた事実、被告より見舞金として五千円を贈つた事実、治療後引続き原告が被告の会社に勤務している事実等諸般の事情を考慮して二〇万円をもつて相当と思料する。 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-慰謝料〕 労働者災害補償保険法による保険給付及び労働基準法による災害補償は財産上の損害の填補に資せんとするものであつて、精神上の苦痛に対する慰藉までをも目的とするものではないから、右給付を受領した場合にあつてもなお慰藉料の請求をすることができるものというべきである。 |