全 情 報

ID番号 04549
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 富士化工機事件
争点
事案概要  就職に際し食糧管理法違反の前科を秘匿したこと等を理由とする解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1960年4月8日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ヨ) 2455 
裁判結果 申請認容
出典 労働民例集11巻2号323頁
審級関係
評釈論文 日労研資料518号10頁/法律時報378号89頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 申請人の右前科を秘匿した詐称行為が果して解雇に値するか否かについて検討するに、申請人本人尋問の結果によれば、申請人が昭和三二年七月一二日被申請会社の前身たるA会社に雇傭された当時においては、右各前科は刑の執行を受け終つてより既に七年有余の歳月を経ていたため、申請人は最早右各前科は法律上消滅したものと信じて、履歴書に記載しなかつただけであつて、全く他意はなかつたことが窺われる。そしてまた前記前科の内容に、成立の争のない甲第一号証、及び被申請人代表者Bの尋問の結果を併せ考えると、会社側はかねて他の従業員より申請人には前記恐喝の前科がある旨聞知し、軽卒にも右噂を信じて申請人に前歴詐称の事実ありとなし、これを本件解雇理由に附加したもので、当時、申請人の前科が破廉恥罪たる恐喝罪ではなく、前記の如く食糧管理法違反の罪に過ぎないことが判明していたならば、被申請人はこれをとりあげて、解雇理由にするつもりはなかつたことが認められ、以上認定の事実によると、右の各前科は、会社が申請人を工員として雇入れるに際し、考慮すべき労働能力、技術に直接関係ある事項といえないのは勿論、会社の労務管理、企業秩序維持のため必要な全人格的判断の資料としても重要な事項であつたとは認められない。換言すれば、右前科が予め会社に知れておれば、申請人を雇傭しなかつたであろうと思われる関係にあつたとはいい難い。従つてまた右前科秘匿のため、労使相互の信頼性が失われ、雇傭関係の継続に支障を来したものともいい難いのであるから、右前歴詐称の事実を以て解雇事由に値する程重大なものとは言い難い。