ID番号 | : | 04550 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本都市交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー運転手の接客態度、不当料金の要求を理由とする懲戒解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1960年4月11日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和33年 (ヨ) 4045 |
裁判結果 | : | 申請却下 |
出典 | : | 労働民例集11巻2号339頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕 被申請人は、申請人の前記行為は、 (1)、乗客に対して途中下車を強要し、その後の乗車を拒否し、 (2)、乗客に対し、メーター表示の料金が百八十円であるにもかかわらず五百円の料金を暗に要求し、これを受取つてその差額を着服し、 (3)、その件につき乗客から東京旅客自動車指導委員会に苦情をもちこまれ、その結果被申請人の対外的信用、名誉を傷つけ、会社に重大な不利益を与えたものとして、(1)、の点では「懲戒規程」第一四条第三一号に、(2)、の点では同条第一二号、第三七号に、(3)、の点では同第一五条第九号、第二〇号、同第一四条第八号、第一四号に、それぞれあたり、「懲戒規程」にてらして懲戒解雇の理由に値するものであると主張するところ、前記認定にかかる申請人の行為が右(1)、および(3)、の場合にあたることは論のないところである。しかしながら、申請人がAの妻から受取つた五百円のうちメーター表示の料金百八十円との差額三百二十円を着服して横領したとの趣旨の前顕乙第八号証中の記載、および証人Bの証言は採用しがたく、他にそのような事実を認めるに足りる証拠はない。そして、真正にできたものであることについて争いのない乙第六号証によつて昭和三二年二月一日から施行されている被申請人の「従業員就業規則」の第一一章中における従業員に対する懲戒に関する規定を補充するため右就業規則に附属せしめられているものであることが認められる「懲戒規程」の第一四条、および第一五条の規定を比照するときは、前示(1)、および(3)、の場合にあたる申請人の行為は被申請人が挙げている「懲戒規程」中の各条項にあたるものと解せられるのである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 「懲戒規程」中、第四条に「懲戒委員会〈以下委員会という。〉は、従業員が第一四条第一〇号ないし第三二号に該当すると認められたときその処分について審議する。」旨、第七条本文に「委員長は社長がこれに当り、また委員は課長以上の職にある者から社長がそのつどこれを指名する。」旨、第九条第一項に「委員会は、委員長、委員三名以上の出席がなければ会議を開くことができない。」旨の規定があることは、当事者間に争いがない。そうして申請人に対する懲戒処分について審議するため懲戒委員会が開かれ、申請人を懲戒解雇するのが相当であるとの決議がなされたことは、前に認定したとおりであるから、本件懲戒解雇の意思表示が懲戒委員会の審議を経ないでなされたものとして無効であるとする申請人の主張は、採用のかぎりでない。 また、前に認定したとおり、右懲戒委員会には、被申請人のC常務取締役、D労務部長、B営業部長の三名が委員として出席し、Cが委員長となつて審議を行つたのであるが、前顕乙第六号証によると、「懲戒規程」第八条第二項には「委員長に事故のあるときは、社長は取締役中から委員長を指名する。」旨、同第九条第二項には「委員会の議事は委員長を加え、同席委員の過半数をもつてこれを決する。可否同数の場合は委員長の決するところによる。」旨の規定があることが認められ、証人Bの証言によれば、前記懲戒委員会においては、全員なんらの異議なく申請人を懲戒解雇すべきであるとの決議がなされたことが認められる。ところで、右に判示した「懲戒規程」第七条本文、および第八条第二項の規定によつて明らかであるとおり、懲戒委員会の委員長には被申請人の社長またはその指名する被申請人の取締役が当てられ、委員は全部被申請人の課長以上の職にあるものから社長が指名することになつていることよりすると、申請人に対する懲戒処分について審議した前記懲戒委員会に、前示「懲戒規程」第九条第一項に規定する定足数を充たすため、正規の委員長である社長またはもう一名の委員が出席しなければならなかつたものであるが、これらの者の出席をえて委員会が開催されたとしても、その決議の結論が異つたものになつたのであろうとはとうてい考えられないのみならず、上掲乙第六号証によつて知りえられる被申請人の「従業員就業規則」、およびこれに附属する「懲戒規程」の全体を通覧してみても、被申請人の従業員に対する懲戒処分に関する懲戒委員会の審議手続が右就業規則等に違反した場合に、当該懲戒処分を無効ならしめる趣旨の規定は全然設けられていないのである。してみると本件懲戒解雇がその手続に違背して無効であるという申請人の主張もまた排斥を免れない。 |