ID番号 | : | 04551 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本碍子事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 就業時間中に使用者に無断でした印刷物の配布行為および協約で定められている生産合理化運動に反対する旨の使用者に対する表明行為を理由とする懲戒としての解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害 |
裁判年月日 | : | 1960年4月11日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和34年 (ヨ) 695 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集11巻2号359頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 石井照久・ジュリスト231号88頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕 本件解雇は普通解雇の形式をとつたものの、実質は懲戒解雇であることは前記のとおりであるから、前記一応の認定にかかる事由が懲戒解雇に値するかどうかを検討する。 申請人は会社の要求する顛末書の提出を拒絶してはおるが、就業の規則および労働協約によるも、その他一般法令に徴するも、申請人に右顛末書提出の義務は認められないので、このことをもつて申請人が職務上の指示命令に不当に従わなかつたとの懲戒事由に該当すると判断し得ないことは勿論である。次にパンフレツトを配布したことも原則として思想表現の自由として保護される性質のものであり、また申請人が生産合理化運動が従業員の犠牲のもとに経営者ないしは資本家のみを利するものであるとの信念を抱き、この考えを他人に表明することも、そのこと自体別段指弾さるべき事柄ではない。 しかしながら、労働協約第五一条によれば「組合が会社の施設又はその敷地内において印刷物を頒布する場合には事前にその旨を会社に届出る」義務を負担していることが明かであつて、このような規定の存する所以は、会社の施設ないしその敷地内における印刷物の頒布行為が正当な組合活動の範囲内に属するや否や、またこれによつて作業能率を阻害する惧れがないかなど、会社をして事前に諸般の情勢判断をなさしめるためのものと解される。しかして個々の組合員といえども組合が負担する前記届出義務を尊重し、その趣旨に則つて行動すべきことは、組合の構成員として信義則上当然のこととみるのが相当である。しかるに申請人はかかることを些かも意に介せず、就業時間中にすら数回に亘つて会社の構内においてパンフレツトを配布したのであるから、申請人の右行為は職場の秩序を紊し或いは紊そうとしたものと判断されても止むを得ないであろう。また生産合理化運動は労働協約に規定する会社と組合との協定であるから、組合員たるものは一応これを尊重してしかるべく、もしこれに反対であるならば、組合内部において組合活動として反対運動を展開し、終局的には労働協約を改定して自己の目的達成を意図すべきであり、また会社としては営業成績の向上に寄与することを期待して従業員を雇傭するものであるのに、申請人が経営責任者の一員である常務取締役に対し、現に労働協約に定められている生産合理化運動に反対し、会社の業績の向上に協力しないと表明するが如きは債務の本旨に従つた労務の提供を拒否することを公然と会社に宣言したことになり、これまた職場の秩序を紊し或いは紊そうとしたものとみられ得るのである。 以上説示の事情と申請人が執務時間中にしばしば新聞を読んだり、居眠りをしたり、上司に無断で職場を離れるなどの執務態度とを綜合すれば、会社が申請人を就業規則第九六条第三号、労働協約第二八条第三号にいう職場秩序を紊したり紊そうとした者として懲戒解雇に処すべきものと判断したことは正当といわねばならない。 |