ID番号 | : | 04553 |
事件名 | : | 給与支払請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東京都教職員組合事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 平常勤務日に早退した教員に対する給付の過払い分の二カ月後の給与からの控除の当否が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法24条1項 地方公務員法58条2項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整 |
裁判年月日 | : | 1960年4月15日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和34年 (ワ) 2284 |
裁判結果 | : | 認容・教職員人事判例 |
出典 | : | タイムズ103号80頁/行裁例集11巻4号1135頁 |
審級関係 | : | 控訴審/04325/東京高/昭42. 3. 1/昭和35年(ネ)1020号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金の支払い原則-過払賃金の調整〕 労働基準法第二四条に規定する賃金の支払に関する諸原則のうち全額払の原則の趣旨は、労働者が賃金の支払を一部保留されることにより使用者から人身を拘束される結果になることを防ぐとともに、同条が定めている賃金の直接払、毎月一定期日払等の他の原則と相まつて、労働者が使用者からいろいろな名目で賃金を差し引かれ(たとえば使用者が積立金や貯金などの名目ではじめから賃金の一部を支払わずに保留したり、労働者に対する貸付金や立替金、あるいは損害賠償債権をもつて賃金債権を相殺するなどの方法による差引を含む。)、そのため思わぬときに僅かな額の賃金しか手に入らず、生活が経済的におびやかされる結果になるのを防ぐためである。ただこの原則を貫くとなると、使用者は労働者に支払う賃金については、一切控除をすることができなくなり、まことにわずらわしくまた実情にそわない場合もおこつて来かねないところから、同条第一項本文において賃金全額払の原則を規定しながらも同項但書ではその例外として、法令に別段の定めがある場合、あるいは所定のような協定がある場合に限つて、賃金の一部を控除、すなわち減額して支払うことができる旨を規定しているのである。そうだとすると、法令または右のような協定に特別の定めがない限り、たとい使用者がどんなにわずらわしく、また不便を感ずることがあつても、一たん発生した賃金債権は、その全額が労働者に支払われるべきものなのである。ところで原告らの給与は、前に判示したとおり毎月一二日にその月分の給与が支払われることになつており、「給与条例」第九条、第一〇条には原告ら主張のような条項があるので、これによると、ある月分の給与とはその月の勤務に対する給与であることが明らかである。したがつて、原告らの昭和三三年一一月分の給与債権は、同月中に給与減額事由があつた場合を除き、原告らの同月中の勤務に対して給与額の全額につき発生するものであり、原告らの同月分の給与債権が、同年九月中に行われた早退分の給与を減額した残額についてだけしか発生していない、と被告が主張するのは全く根拠にとぼしい議論であつて、これこそ同年一一月分の給与の一部控除が行われたことを表明する以外の何ものでもないのである。そうしてその一部控除が、単なる金額の差引であるか、それとも無断早退による同年九月分の給与の一部についての返還債権と、同年一一月分の給与債権との相殺になるかという点はしばらくおくとして、そのいずれにあたるにしろ、またたといそれが被告の主張するとおり減額事由の発生した時期に接着した月になされた給与の過不足を調整するための合理的手段であるにしても、このような減額は労働基準法第二四条第一項但書の場合でない限り、同項本文に規定する賃金全額払の原則に違反するものとして許されないのである。 |