全 情 報

ID番号 04557
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 ジャパン・セントラル・エクスチェンジ事件
争点
事案概要  日米安保条約に基づく行政協定によって規制される機関たるジャパン・セントラル・エクスチェンジによる日本人従業員に対する解雇につきわが国の裁判所が裁判権を有するか否かが争われた事例。
参照法条 日米安保条約第3条に基く行政協定15条
体系項目 解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
裁判年月日 1960年5月19日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 昭和32年 (ヨ) 4 
裁判結果 申請却下
出典 労働民例集11巻3号527頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇と争訟〕
 まず被申請人に対するわが国の裁判権の有無について按ずるに、当裁判所のなした調査嘱託に対する最高裁判所事務総局行政局長の回答書(同添付資料を含む)によれば被申請人ジヤパンセントラルエクスチエンジは行政協定第一五条に規定する合衆国軍当局の公認しかつ規制する歳出外資金機関に該当すると認められ、同機関は合衆国の陸軍規則(Army Regulation)及び空軍規則(Air Force Regulation)に準拠して設立され、同規則によれば「同機関は連邦政府機関であり且つ連邦憲法及び法令に基いて連邦政府の官庁及び機関に与えられるすべての免除及び特権を享有する。」旨規定されていること並びに被申請人と同じく歳出外機関の一つであるところの米軍ピー・エツクスにつき合衆国連邦最高裁判所はそれが「政府の職務遂行に不可欠のものと政府から認められているところの政府の手足(arms of the government)であると結論する。ピー・エツクスは陸軍省の不可離的一部分をなし陸軍省に付託された任務を遂行する責任を分担し憲法及び連邦法律により陸軍省が享受するすべての免除特権を保有する。」(同裁判所一九四二年六月一日判決、A会社対カリフオルニア州財務官事件)と判断していることが明らかである。されば被申請人も合衆国においては国家機関の一つとして承認されているものと認めるべきで、かゝる場合は特段の事情なき限りわが国においてもこれを合衆国の国家機関として取扱うことが相当である。申請代理人は被申請人が軍務と直接関係を有しない単に商品販売を営むにすぎないことを根拠として軍当局ないし合衆国から独立した権利能力なき社団であると主張するが右主張は採用できない。
 しかして外国法上その国の国家機関であるものに対するわが国の裁判権は当該国がわが国の裁判権に服する場合にのみ認められるものと解すべく、民事訴訟に関し外国にわが国の裁判権が及ぶのは、外国が任意にわが国の裁判権に服することを承認しているものと認められる場合に限るものと解すべきである。そして外国の右の承認があるとするためには条約その他において一般的にまたは特定の事件についてわが国の裁判権に服する旨が明確に表明されているものと認められる場合に限るものというべきところ、本件についてはもとより一般的に、合衆国自体乃至その機関がわが国の裁判権に服する旨が明確に表明されているものと認めるに足る条約その他のとりきめがないものと考えられる。申請代理人は行政協定第一五条第四項に歳出外資金による機関に雇傭される日本人労務者について「賃金及び諸手当に関する条件の如き雇用及び労働の諸条件、労働者保護のための条件、並びに労働関係に関する労働者の権利は日本国の法令で定めるところによらなければならない」と規定のあることを根拠として申請人は日本の裁判所にその保護を求められるものと主張するようであるけれども右条項は雇傭関係についての実体的な権利義務について日本の法令に準拠してとりきめられなければならない旨を規定したに止まり、同条項から直ちに合衆国乃至その国家機関が日本の裁判権に服することを承認しているものと解することはできない。
 以上のとおりであるから当裁判所は合衆国の国家機関と認められる被申請人に対し裁判権を有しないものと謂うべく本件申請はその余の判断をするまでもなく不適法である。