ID番号 | : | 04558 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 全駐労相模支部事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 駐留軍労働者に対する保安解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 日米安保条約第3条に基く行政協定12条5項 日米安保条約第3条に基く行政協定15条4項 労働組合法7条1号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1960年5月25日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和33年 (ワ) 5512 |
裁判結果 | : | 請求認容 |
出典 | : | 労働民例集11巻3号548頁/タイムズ105号77頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 加藤俊平・ジュリスト246号91頁 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕 軍が被告において雇傭して軍の労務に服させるため軍に提供した日本人労務者を保安上危険であるとの理由により解雇するのが正当であると認めた場合には、日本政府の機関にその旨通知して意見を徴するものではあるけれども、保安解雇の基準に該当する事実の存否に関する認定の最終決定権は軍に保留されていて、被告は、駐留軍労務者を保安解雇すべきものとする軍の判断に同意しない場合においても、当該労務者に対し保安解雇の手続をとらなければならないことに、労務基本契約及びその附属協定上規定されていることが認められるところからすると、労務基本契約及びその附属協定によつて被告は、軍が保安解雇を要求した駐留軍労務者については必ず解雇の措置をとるべきことを軍に対して約したものであつて、保安解雇の基準に該当する客観的事実が存在するものと自ら判断した場合に限つて当該労務者に対し保安解雇の権利を行使できるに過ぎないものとされているのではない。ところで証人Aの証言によると、被告が原告に対して保安解雇の意思表示をしたのは、米極東陸軍第八軍司令官から労務基本契約及びその附属協定所定の手続をふんで原告に前記附属協定第一条aの(2)に掲げる基準に該当する事実があるとして被告に対し原告の解雇要求があつたことに基いたものであることが認められるのであるから、仮に原告に右のような保安解雇の基準に該当する客観的事実が存在しなかつたとしても、そのために被告の原告に対する解雇の意思表示が原告の主張する如く労務基本契約の附属協定に違反するとの理由で無効であるということはできないのである。〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕 被告が原告に対して解雇の意思表示をするに至つたのは、原告の勤務していた現地部隊の上級司令部から直接被告の行政機関である調達庁に対して、原告に日米労務基本契約附属協定第六九号第一条aの(2)に該当する保安上の危険があるとして意見を求めて来たことにその端を発したものであつて、調達庁では、昭和三〇年一〇月一三日、原告はかつて昭和二三年一〇月頃当時福岡県春日郡において右附属協定第一条aの(2)にいわゆる破壊的団体の下部組織の責任者として活動していたことがあつたけれども、現在(昭和三〇年一〇月当時)においては原告に保安解雇の基準に該当する事実のあることを認めるに足りる決定的な資料を発見できない旨の意見を提出したのであるが、軍より原告に対する保安解雇の要求がなされたために、被告から原告に対してその意思表示をするに至つたことが認められるのである。そして前出乙第五号証によると、日本に駐留するアメリカ合衆国の陸軍のため労務に服する日本人労働者に対する保安解雇に関する最終決定は、アメリカ極東陸軍司令官がアメリカ軍の将校及び軍属から任命する四人の委員によつて構成される保安解雇審査委員会の諮問を経て行うものであつて、右委員会は、審査に当つて、当該事件の本人に関する労務基本契約附属協定第六九号第一条aに規定されている基準に密接又は直接に関係のある情報のみを考慮し、本人の組合活動又はアメリカ合衆国の保安に関係のない他の事項は斟酌しない建前になつていることが認めるけれども、駐留軍労務者に対する保安解雇の実質的決定権者である軍司令官がその決定をするに当つて絶対に不当労働行為の意思を持ちえないということについて制度的保障その他の根拠の存することを認めるに足りる証拠がないのみならず、殊に本件の事例の場合におけるように、原告の組合活動をその勤務先の現地部隊が極度に嫌つていた事情の存したことが認められ、しかもその上級司令部が現地部隊とは全然無関係に、被告に対して原告の保安解雇を要求することを決定したという特段の事情のあつたことについて何らの立証もなされていない以上、原告の保安解雇を被告に対して要求した軍当局に絶対に不当労働行為の意思がなかつたものとは断定しえないのである。更に原告に対する保安解雇の基準とされた前記附属協定第一条aの(2)に該当する具体的な事実が本件において被告より証明されるところがないことを合せて考えるときは、被告から原告に対して解雇の意思表示がなされるに至つた決定的な理由は、軍が原告の組合活動を嫌悪し、原告をその職場から排除しようとした点にあるものと推認するのが相当であり、上述のとおり駐留軍労務者の保安解雇が最終的には軍当局の決するところに委ねられているものであるからには、右のような意図に基く軍の要求により被告から原告に対してなされた解雇の意思表示は労働組合法第七条第一号に牴触し、労使関係の公序に違反するものとして無効であるといわなければならない。 |