ID番号 | : | 04562 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | アンタタクシー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 走行距離および売上金の過少が原因となって発生した運転手とタクシー会社取締役間の紛争に基因して、右運転手と同一の組合に所属する他会社の従業員らがなした右取締役に対する暴行事件につき、他会社の従業員を参集せしめた従業員らが解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項 労働組合法7条1号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1960年6月30日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和34年 (ヨ) 315 |
裁判結果 | : | 申請却下 |
出典 | : | 労働民例集11巻3号681頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 花見忠・ジュリスト241号124頁 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕 債務者会社が債権者等の解雇を決するに至つた主たる理由としては、同年五月二十二日朝、債務者会社宮元町営業所において、債権者X1が運転日報につき前日来の走行粁数及び売上金額の不足等を債務者会社の「労務及び常務」を担当する取締役Aより指摘され注意を受けたが、「会社から何も聞く必要はない」とてこれをうけ容れず、債権者X2同X3の両名も「組合員のことは俺達がやる」等といつてAと押問答をなし、同人より債権者X1が「理由書」の提出を求められるや、債権者等は交々「そんなものは書く必要がない」等といつて抗議し、とかくしたのち、債権者X2は債権者X3と協議のうえ所属組合「B」支部のCDを呼寄せたことに端を発し、債務者会社従業員でない他の自動車会社の従業員等が相次いで参集し、その数は二、三十人に及んだが、当初、Aが事務所附近でこれら部外者の入構を拒絶したが聴き入れられず、それらの者は債権者X2の先導で前掲仮眠所に向い、同所に入る、入れない、とてAと押問答を重ね、約十二、三名が同所入口の階段のある約一坪半ばかりの部屋に入り、同所にてAの胸倉をつかみ耳を引つ張る頭顔等を手で突く等し、そのうち突然「AがCを殴つた」とて騒ぎ出し、債権者X1は右部屋にいながら、部外者や他の債権者等の行動を傍観する態度をとつていたが、A(同人は左脚の第二関節以下を切断した身体障害者。)は次いで戸口附近で殴る蹴るの暴行を受け、そのため松葉杖もとられ、戸外に出されて押し倒され、その間社長Eはその場を逃れて辛じて難を免れたが、かような不祥事件の発生を見たことから、債務者会社は債権者等を会社秩序を紊し会社と同人等との間の雇傭契約上の信頼関係を破壊したものとしてこれを解雇するのほかなしとの結論に達したものであることが一応認められる。 けれども、本件疎明資料によれば債権者X1の前記走行粁数及び売上金額の不足は、同債権者が、同日午前一時頃神奈川県ハイヤータクシー労働組合F支部員が加賀町警察署員に負傷させられたという事件に関し、同組合の指令により各支部員が同警察署に対し集団抗議を行つた際債権者X1もまた之に参加したことによるものであること、Aは債権者X1に対し、右走行粁数及び売上金額の不足の理由を訊した際加賀町警察署における集団抗議の事実を知つており、債権者X1が右集団抗議に参加したことにつき疑念をもち、(之を咎める意思があつたと思われるふしがあり)同債権者が理由書の提出を拒むや、直ちに、その場で、同債権者に対し「明日解雇にするか下車勤にする」旨言渡したこと、しかるに、かように、走行粁数及び売上金額の不足を発見した場合Aはその理由を訊し、不審のある場合には理由書の提出を求めるというのであるが、かような場合において、従来は理由書の提出を求められた例は殆どなかつたこと、並びに仮眠所入口における暴行事件はAが昂奮の余、不用意にも、自ら右手を以てB会社の運転手Cの顔面(頬部)を一回殴打したことにより開始されたものであること及び債権者X1が部外者やその他の者等の行動を傍観しながら敢て之を制止するに至らなかつたのは「解雇する」といわれたことにより意気銷沈したためであつたこと等の疎明がある。 従つて、右暴行事件は、A自身の軽卒な攻撃的行為により開始されるに至つたものであり、又、債権者等が右暴行につき自ら手を下したことについては何等疎明はないとはいえ、之より先、債権者X3及び同X2が共同して予め何等の準備もなく、徒に、他の会社の従業員を無制限に債務者会社内に導入し、事情を知らない同会社当局との間に不穏な情勢を発生せしめたことに起因するものというべきであるから、之により前記のごとき結果を来した以上、同債権者等は之を予想しなかつたとすれば予想しなかつたことにつき重大な過失があつたといわなければならないし、之を予想したとすれば、その防止の手段を講じなかつたことに基き、いずれの場合としても、その結果につき責任を脱れることはできないと解すべく、右債権者等の行動はそれ自体正当な組合活動といい難いことはもとより、債務者会社において右のように認定して、同債権者等を解雇するに至つたことは一応無理からぬ事情に出でたものということができる。 |