ID番号 | : | 04564 |
事件名 | : | 解雇無効確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 近畿日本鉄道事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | いわゆるレッドパージとして行なわれた解雇について、その根拠(マ書簡等)および協約の解雇協議条項の適用が問題となった事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 労働組合法16条 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど) |
裁判年月日 | : | 1960年7月30日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和28年 (ワ) 2483 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集11巻4号813頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 山口浩一郎・ジュリスト242号92頁 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕 そこで、右一連の書簡の趣旨について考えてみるに、昭和二五年五月三日付声明は、日本共産党が公然と国外からの支配に屈服し、日本国民の利益に反するような運動方針を採用していることを非難し、「現在日本が急速に解決を迫られている問題は、全世界の他の諸国と同様、この反社会的勢力をどのような方法で国内的に処理し個人の自由の合法的行使を阻害せずに国家の福祉を危くするこうした自由の濫用を阻止するかにある。」「今後起る事件がこの種の陰険な攻撃の破壊的潜在性に対して公共の福祉を守りとおすために日本において断乎たる措置を取る必要を予測させるようなものであれば、日本国民は、憲法の尊厳を失墜することなく、叡知と沈着と正義とをもつて、これに対処することを固く信じて疑わない。」と述べているのであつてその限りにおいて、この書簡は当時の共産主義運動に対する日本国民の心構えについて警告したに過ぎないものと解せられ、日本国民を具体的に拘束するような法規範としての性質を到底認めることはできない。次に、同年六月六日付書簡は日本国民の間における民主主義的傾向の強化に対する一切の障害を除去することがポツダム宣言の基本方針であることを説き、「代議政治による民主主義の線に沿つて日本が著るしい進歩を遂げているのを阻止し、日本国民の間に急速に成立しつつある民主主義的傾向を破壊するための手段として真理をゆがめることと、大衆の暴力行為をたきつけることによつて、この平和で静穏な国土を無秩序と斗争の場に転化しようとしている」勢力のあることを指摘し、かかる見地から、日本共産党の中央委員の公職からの追放を明らかにしたものであつて、党幹部の追放に法的根拠を与えたものとしても、これをもつて日本の国家機関並びに一般国民に対し、全ての共産党員又はその同調者の追放をも義務づける法規範を設定したものと解することは困難といわざるを得ない。更に、同年六月七日付書簡についてみると、自由且つ責任ある言論の発達を奨励し援助することが基本的な占領政策の一つであることを明らかにすると共に、当時の共産党機関紙アカハタが「共産党内部の最も過激な不法分子の送話管を演じて来ており、官憲に対する反抗を挑発し、経済復興の進展を破壊し、社会不安と大衆の暴力を生ぜしめるために、無責任な、感情に対する勝手で虚偽に満ち、煽動的反抗的な呼びかけを掲載して来た」として、アカハタの編集担当責任者数名の追放を指令したものであり、また、同年六月二六日付書簡は、前記書簡の発表後も、アカハタが依然煽動的な行動を続けたとして、これに対し、三〇日間の発行停止の処分をなしたものであつて、いずれも直接にはアカハタ及びその後継紙並びに同類紙を対象としており、拡張して解釈するとしても公共的報道機関一般についてはさておき、それ以外に一般私企業をもその対象としているものとは解せられない。最後に、同年七月一八日付書簡についてみると、これは、我国の報道関係企業における所謂レツドパーヂの法的根拠を提供したものとして極めて重要な書簡であるが、これによれば、「日本共産党の公然と連繋している国際勢力が、民主主義社会における平和の維持と法の支配の尊厳に対して更に陰険な脅威を与えるに至り」「かかる情勢下においては、日本においてこれを信奉する少数者が、かかる目的のために宣伝を播布するため公的報道機関を自由且無制限に使用することは、新聞の自由の概念の悪用であり、これを許すことは、公的責任に忠実な日本の報道機関の大部分のものを危険に陥れ、且つ一般国民の福祉を危くするものであることが明らかとなつた。現在自由な世界の諸力を結集しつつある偉大な闘いにおいては、総ての分野のものはこれに伴う責任を分担し、且つ誠実に遂行しなければならない。かかる責任の中公共的報道機関が担う責任程大きなものはない」「現実の諸事件は、共産主義者が公共の報道機関を利用して、破壊的暴力的綱領を宣伝し、無責任、不法の少数分子を煽動して法に背き、秩序を乱し、公共の福祉を損わしめる危険が明白なことを警告している。それ故、日本において共産主義者が言論の自由を濫用してかかる無秩序への煽動を続ける限り、彼等に公共的報道機関の自由を使用させることは、公共の利益のために拒否されねばならない。」とあつて、直接的にアカハタ及びその後継紙並びに同類紙の発行に対し課せられた前記の停刊措置を無期限に継続することを指令すると共に、裏面において共産主義者の公的報道の自由の使用拒否を要請しているのであるが、このうち「総ての分野のもの」の「責任」への言及は、その対象が極めて漠然としており、説示の内容よりしても、単に窮極的に報道機関の持つ責任を抽出するための前提的乃至前置的説示とみるべく、これを特に日本国民又は日本重要産業〔中略〕の経営者に対する連合国最高司令官の法的要請と解釈せざるを得ない根拠なるものは全く薄弱であつて、到底かく解することはできない。〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕 被告は、解雇協議約款は労働者の待遇に関する「基準」と解せられないから、これに違反しても解雇自体の効力には影響がないと主張するけれども、元来かかる約款は、解雇が労働者にとつて、その労働契約関係を終了せしめるという意味において、最大の待遇の変更であることに鑑み、これを使用者の一方的な権利の行使に委ねることなく、いわば労使の共同決定(この点でいわゆる経営参加の面を持つ)の方法に委ねることによつて、使用者の権利行使を制約(この点でいわゆる労使間の個別的権利関係の変更の作用を営む)し、以つて労働者の地位の強化を図ろうとするところにその存在理由があるものと解せられ、いわば使用者と労働者の双方の権利の接触点に該当し、その主旨は、通常の基準の定立、適用によつては解雇の具体的妥当性が必ずしも保証し難いとした場合に、ある種の解雇の一般的要件として、その具体的事例につきその都度協議による臨機適切な具体的基準の設定ないしその適用を計ろうとするもので、通常の基準に代置される解雇要件として、通常の基準同様の制約的作用を営み、その意味において、個々の労働者の解雇の条件をなし、解雇に関する法律要件として優に個々の労働契約内容たり得べきもので、この意味において労働条件の一つの類型を示すものであるから、協約の規範的効力を持ちこの解雇要件を充足しない以上解雇が無効たるべきはいう迄もない。 |