ID番号 | : | 04568 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本鋳工事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 人員整理に応じて退職する者について協約の「退職手当支給規則」の解釈が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号の2 労働組合法16条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 |
裁判年月日 | : | 1960年8月31日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和33年 (ワ) 6697 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集11巻4号916頁/タイムズ108号77頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 労働経済旬報457号19頁 |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 被告と組合との間には、かねて従業員が退職した場合についての退職金支給に関する労働協約が結ばれていて、退職が従業員の都合による場合については退職金の算定基準が定められていたけれども、被告の都合による退職の場合における退職金の算定基準については取りきめがなされていなかつた。ところが叙上のように被告の企業再建のための人員整理によつて退職する従業員に対しては、本人の都合による退職の場合に比べて退職金の額を多くせざるをえないという考えから、被告は、昭和三二年一一月二八日組合との間に退職金の支給に関する新たな労働協約、すなわち前述の「退職手当支給規則」を結び、従業員の都合による退職の場合よりも高率の退職金の支給基準を、被告の都合による退職の場合について規定したのである。しかしながら被告の企業整備に便乗して退職した従業員に対する退職金の支給についても右の規定が適用されはしないかということを危ぶんで、前記新協約の運用を被告の債権者において適宜制肘しうる余地を残して置きたいとの意向が債権者委員会から強く表明されたため、右協約の規則中に「本則の適応(原文のまま)に当つては総会(債権者の総会を意味する。)との協議に依つて行なう。」との規定と「本則は会社及び組合双方の調印の日より之を実施する。但し第三条第四項(原告が本訴請求について援用している規定)の効力発生は債権者委員会の承認を要するものとする。」との規定が入れられるに至つたのであるが、被告としては、和議法による和議の方法によつて事業の再建を図りたいと内心考えていた事情もあつて、和議さえ成立すれば、「退職手当支給規則」の前示附則の規定にかかわらず、右規則の運用は自由に行えるとの見通しに立つて、組合に対しては、債権者を納得させるための方便として上述のような附則を設けるけれども、あくまで表面的なものであつて、被告が企業再建のために行う人員整理に応じて退職する組合員に対しては、債権者委員会の承認の有無にかかわりなく、協約にしたがつて退職金を支給する旨説明し、組合も被告の債権者に対する立場を認めて、前記附則の規定を置くことを了承したのであり、このようないきさつを経て、原告ら中組合に加入していた者は、被告の企業再建計画にしたがつて退職したのである。以上の認定を覆えすに足りる証拠はないところ、被告が組合との間に「退職手当支給規則」を結ぶにあたり、非組合員の退職の場合にも右規則の定めるところに準じて退職金を支給する旨の意思を表示し、原告らのうち組合に所属しない前記五名に対しても現に退職金の一部が被告から支払ずみであることが当事者間に争いのないところからするときは、右五名の者もまた原告らのうち組合員である他の者と同様の事情のもとに退職したものと認めるべきである。 叙上のような「退職手当支給規則」の結ばれるに至つたいきさつからみても、また本件請求の根拠とされている右規則の規定中における被告の都合による退職という趣旨の文言の文理的解釈からいつても、上述のような事情に基く原告らの退職が被告の都合による退職にあたることは明らかであり、右にいわゆる被告の都合による退職とは被告の責に帰すべき事由による退職を意味するものであるとする被告の主張は、これを肯定すべき特段の事情の認められないところからいつて、とうてい採用することができないのである。 |