全 情 報

ID番号 04569
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 米空軍立川基地事件
争点
事案概要  国に雇われ米空軍基地で製図工として勤務していた者が基本労務契約に基づいて保安上危険があるとして解雇され、労基法三条に違反するとして争った事例。
参照法条 労働基準法3条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1960年9月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和34年 (ヨ) 2176 
裁判結果 申請却下
出典 労働民例集11巻5号949頁/時報237号33頁/タイムズ110号81頁/訟務月報6巻10号1926頁
審級関係
評釈論文 加藤俊平・ジュリスト246号93頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 成立に争のない乙第一号証によれば前記基本労務契約に附属の細目書においてはアメリカ合衆国軍隊がその労務に服させるため被申請人から提供を受けた間接雇傭の駐留軍労務者を保安上の理由により解雇するのを正当と認めた場合には日本政府の機関に通知して意見を徴すべき旨を規定しているが、同時に被申請人は右軍隊が保安解雇の基準に該当する事実の存否に関してなす判定に異議がある場合にも同軍隊の要求がある限り保安解雇の手続をなすべき旨を規定していることが一応認められるから、被申請人は基本労務契約及びこれに附属の細目書によつて、アメリカ合衆国軍隊に対し保安解雇の基準に該当する事実の存否に関する最終的認定権を与えたものと解され、これがため被申請人が駐留軍労務者に対して行う保安解雇をその基準に該当する事実が客観的に存在するものと自ら判断した場合に限定し得ない結果が生じるのは制度的に避け難いところであつて、少くともその限りでは右解雇基準は駐留軍労務者のため解雇権を制限する趣旨の保障とはなつていないものという外はない。してみると被申請人から申請人に対してなされた解雇の意思表示はさきに一応認定したように保安解雇の基準に該当する前掲事実があるとしてアメリカ合衆国軍隊から被申請人に対してなされた申請人の解雇要求に基くものである以上、仮に申請人に右解雇基準該当の事実がなかつたとしても、そのことのために基本労務契約附属の細目書に違反するものではないのであつて、もとより申請人主張のように解雇権の制限違反という独自の解釈を適用し得る筋合ではない。しかして又右軍隊が不当な目的、動機を以て申請人をその職場から排除せんとして解雇の要求をなしたものである等特段の事情があれば格別、さような事情の存在についてはその疏明が得られないから、解雇権濫用の主張も理由がない。
 三 次に申請人は前記保安解雇の基準のb及びbを前提とする場合のcは文理上思想、信条によつて差別的取扱を許すのみならず、実際の取扱上も日本共産党員もしくはその組織的同調者又はこれと連携する者の排除を目的としているから、憲法第十四条、第十九条、第二十一条及び労働基準法第三条に違反し当然無効であつて右基準のbを前提とするcを適用してなされた申請人に対する解雇の意思表示も無効に帰すべきであると主張するが、軍隊という組織がその存立上行動の安全を保持するため極度に機密を重んじることからすれば基本労務契約附属の組目書F節においてアメリカ合衆国軍隊が被申請人から提供を受ける間接雇傭の労務者に対し保安上の理由により解雇の措置を要求し得ることを定めたのは当然であり、その基準として列挙の事由も軍隊の保安上危険とみなされてもやむを得ない場合であると考えられるから、保安解雇の制度を以て単なる思想、信条等による差別待遇を許容せんとするものであるというを得ないことは明らかであつて、申請人主張のような解釈を生ずべき文理上の根拠がないのは勿論、実際上の取扱は別として申請人主張のような目的が介在することを窺わせる疏明もない。さすれば右解雇の基準が申請人主張のように憲法又は労働基準法に牴触すべきいわれはなく、その牴触を前提とする解雇無効の主張は採用の限りではないのである。