全 情 報

ID番号 04579
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 嶺南食糧販売協同組合事件
争点
事案概要  協同組合に雇用される会計主任が、右協同組合と取引関係にあり、かつ右会計主任自身もその組合員である企業組合と金銭上の紛争が生じ、かつ組合から除名されたことを理由として解雇された事例。
参照法条 労働基準法20条1項
民法1条3項
中小企業等協同組合法45条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇の自由
解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
裁判年月日 1962年1月30日
裁判所名 福井地小浜支
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ワ) 10 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 労働民例集13巻1号34頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇の自由〕
 原告は本件解雇は中小企業等協同組合法第四五条に違反するから無効であると主張する。
 然しながら仮に原告が同法にいわゆる会計主任の地位にあつたとしても(原告が被告組合小浜営業所の会計主任の地位にあつたことは当事者争いがないが、弁論の経過に鑑みるときは原告が同法にいわゆる会計主任の地位にあつた趣旨において主張し、被告亦その趣旨においてこれを認めたものとは解し難い。)、会計主任は組合の使用人に外ならないから、選任権者である理事会においてその解任をなしうることは勿論であつて(同法第四四条参照)、同法第四五条はただその専権を封ずる趣旨において少数組合員に対し一定要件の下にこれが解任請求の権利を付与したものであると解され、会計主任を解任ないし解雇するには必ず同法条所定の手続を履践せねばならぬことまでを規定したものではないこと多言を要しない。それ故にこれと異る見解を前提とする原告の右主張はその余の判断を経るまでもなく採用できない。
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 ところでこの紛争は訴外組合とその組合員である原告等間のもので、いわば一企業体内部の内輪もめともいいうる事案である。而もその内容は金銭上の争いで且つ被告組合における原告の職務とは何等の関係もない。従つて被告組合とすればこの紛争については全くの第三者たる立場にあるわけである。
 そうとすれば被告組合は仮令自己の使用人がその紛争の渦中にあるとしても、その紛争が内容、態様いずれの点からしても前述のように訴訟による解決が所期される段階に達していた以上、節度を弁えた仲裁の程度なら格別、その限度を超えてみだりにその紛争に介入するが如きことは厳に慎まねばならない。
 尤も被告組合と訴外組合とは営業上卸、小売の関係にあることが証人Aの証言によつて認められ、被告組合としては訴外組合のために協調してゆかねばならぬ立場にあることは察せられないでもないが、それにしてもただそのような関係が存することを理由に解雇というが如き紛争当事者一方の死命を制するが如き挙に出ずることは断じて許されない。若しかかることが許されるものとすれば、被解雇者は裁判上における権利の行使を断念し、法的紛争を訴訟外で解決するの余儀なからしめるに至るべきことは十分予想されるところである。ましてや証人Bの証言によつて明らかなように被告組合小浜営業所は所長を含め職員が僅か三名程で、組合も結成されていない実情にあるのであるから、被解雇者に与えられるべき苦痛はなみなみならぬものがあるものと思われる。
 そしてこの不介入を維持することにより、被告組合としてはその解決をみるまで多少共事務処理上不便を忍ばねばならぬこととなるけれども、現実には紛争というものが避けられない以上又これが法的解決のために訴訟手続なるものが設けられている以上それも止むをえないことといわねばならない。
 又被告組合が本件解雇の道を選んだについては原告等保証人の態度が著しく信義に反するとする正義感に出でたことはC証人の供述によつて窺いえないわけではないが、それも労資関係についてのおくれた意識から発したものと解せられないでもないし、のみならず原告が誓約書を入れているということ自体を過信し或いは組合理事者側の提供した資料のみを一方的に重視して、原告に保証責任があり而も全額弁償の責任ありと即断したきらいがないでもないので、そのようなことは本件解雇を正当化するものでないことはいうまでもない。
 更に被告は原告の勤務成績が極めて不良であつたと主張する。
 然しながら仮にその点を解雇理由として参酌したとしても、解雇に値する程の勤務振りであつたことは被告の全立証によつてもその証明が十分でない。ただ前記A、B証人並びに証人Dの各証言によれば、昭和三四年六月頃以降は従前より仕事に熱意を欠くに至つたことが認められるけれども、それもC証人が「それは無理もないことで、支払命令に対し異議申立をしたということも手伝つて敵味方になつているような状況であるから、断らずに欠勤することもありうると思つた」旨供述しているとおりの事情にあるやと察せられるので、この点は未だ以て解雇に値する程の事由とはなし難い。
 叙上説示の理由により本件解雇はその正当なる行使の方法を著しく誤つたものであつて、無効たるを免れない。
〔解雇-解雇と争訟〕
 つぎに昭和三五年五月一日以降の将来賃金(一部は履行期が既に到来している)の請求について検討する。
 いうまでもなく将来の給付の訴は予めその請求をする必要がある場合に限り許容される。ところで労働契約関係は概して永い将来に亘る法律関係であつて、その間その内容たる賃金額等において絶えず変動があることはその性質上免れえないところである。例えば随時定期、臨時の昇給があり又税率、各種保険料率の変更に伴う賃金額の変動があり、場合によつては家族の異動による扶養手当額の増減或いは欠勤による減給等がありうる。従つて本件のように現在額を以て将来賃金を確定してしまうことは、それが永い将来に亘れば亘る程労働者にとつて概ね不利益となるであろうし又これを本意とするものでもあるまい。又使用者側としても仮令確定判決があつても、それは労働関係の継続ないし労務の提供を前提とするのであるから、将来この点が争いとなつた場合にはその執行力を排除するため或いは過払金の返還を求めるため永い期間に亘つて請求異議、執行異議その他の形で提訴するの不便を忍ばねばならない。
 それ故にこの種法律関係については相当期間を限つて将来給付の訴を許容するのが相当である。雇傭関係終了迄などという永い将来に亘つてまで債務名義を形成しておく必要は毫もない。このために労働者は一定の期間毎に将来給付の訴を提起するの煩を忍ばねばならないがそれも止むをえない。