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ID番号 04585
事件名 災害補償金請求控訴事件
いわゆる事件名 牧運送車夫事件
争点
事案概要  自己所有の馬および荷馬車を所有して他の運送業者の運送に従事していた者の木材運搬中の死亡事故につき業務上か否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法79条
労働基準法86条2項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 労働者の概念
労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 労働者
裁判年月日 1962年4月16日
裁判所名 広島高岡山支
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ネ) 32 
裁判結果 認容
出典 労働民例集13巻4号807頁
審級関係 一審/岡山地勝山支/   .  ./昭和29年(ワ)39号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-労働者の概念〕
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-労働者〕
 Aは国鉄の線路工夫として勤務していたが、昭和二一年一一月頃これを辞めて馬及び荷馬車を購入し、爾来荷馬車による貨物運送業に従事していたこと、被控訴人は、土地の農業協同組合が同二三年一二月頃より精米業をも開始することとなつたので、顧客に対する集米・配達等のサービスにより右組合との競争において優位に立ち、かつは事業を拡張するため、Aをして自己の業務に専属的に従事させ、同人に対し一カ月金一万円を支給することを約したこと、そこで、右Aは、その頃から被控訴人方に赴き、前示荷馬車を使用して米・薪炭の集荷、精米の配達等被控訴人の業務に従事していたが、右荷馬車は金輪の旧式のものであつたため、昭和二三年一二月頃被控訴人の指示に基きゴム輪式のものと取り替えたが、その費用金四〇、八〇二円は被控訴人において負担したほか、同二四年六月初旬頃右荷馬車に使用する馬を売却して新たにこれを購入したが、右購入も被控訴人の指示に基きその不足金四〇、〇〇〇円も被控訴人において立替え支出したこと、被控訴人は、Aに対し毎日糠一斗を無償支給していたほか、右Aが当時加入していた真庭郡の運搬業組合から配給を受けた一カ月一俵半の糠代金も負担していたこと、Aは、昭和二四年春頃訴外B、C、D、E等の田の鋤起しに従事したが、右はいずれも被控訴人の指示に基くものであつて、直接同人等より賃金の支払いを受けた事実の存しないこと、Aは、被控訴人より月給・給料等の名目で毎月一万円の支給を受けていたが、そのうち昭和二四年二月分は取引高税金一〇〇円、蹄鉄代金五〇〇円その他前借金等を控除して金五、六三二円六〇銭、同年三月分は取引高税金一五〇円その他前借金を控除して金一、五六一円九〇銭、同年四月分は前借金等を控除して金二、六六五円八〇銭の支払いを受けたこと、被控訴人は、運送部日誌なるものを作成して、右Aの運送業務に関する収支を明確に記帳していたこと、Aの死亡後、同人の使用していた前示馬匹及び荷馬車は被控訴人によつていずれも売却処分されたが、被控訴人より控訴人に交付されたのは、右馬匹の売却代金六万円のうち金三万円、荷馬車の売却代金四万円のうち金一、五〇〇円に過ぎない事実を認めることができる。もつとも、甲第一二号証、原審証人F、原審(第一回)及び当審(第一、二回)における被控訴本人の各供述中には、Aに月々交付していた金一万円は同人に対する給料ではなく、同人の生活費を一カ月金一万円と見積つて好意的に、これを保証し、それを超える稼高を立替金の弁済に充当する趣旨のもとに、同人の収支を日誌に記載して計算関係を明らかにしていたに過ぎず、右日誌の表題の「運送部」なる記載は被控訴人の単なる悪戯書に過ぎない旨の記載ないし供述が存するけれども、Aの稼高が一カ月金一万円に満たない場合でも金一万円を支給していた事実は、前示甲第一二号証によつて認め得るのみならず、被控訴人が右Aに対し毎月支給していた金一万円をもつて、同人の生計を保証するための好意的措置と認むるに足る証拠も存しないから、右の各証拠をもつて前叙認定を動かすことはできず、また、右認定に反する原審証人F、当審証人G、原審(第一、第三回)及び当審(第一、二回)における被控訴本人の各供述は、前顕各証拠に照らして措信できず、他に、これを覆えして被控訴人の主張事実を肯認するに足る証拠は存しない。
 しかして、以上に認定した事実によれば、Aは、被控訴人の事業につき全般的に指揮、命令を受けてその監督に服し、賃金の支払いを受けていた者、換言すれば、被控訴人の事業に使用された労働者に該当すべきものであることは明らかであるといわなければならない。なお、Aが真庭郡の運搬業組合に加入していたことは、前叙認定のとおりであるが、右組合に加入していても他に雇傭されることを妨げるものでないことは、原審証人Hの供述に徴して明らかであるから、右組合加入の事実と右認定事実と相容れないものではない。