ID番号 | : | 04594 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 後藤・奈良輪スポンジ加工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | スポンジ加工の家内工業でスポンジ裁断器で人示指を切断したアルバイト少年およびその親が使用者に対して損害賠償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1962年6月20日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和36年 (ワ) 934 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却 |
出典 | : | 時報304号29頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 被告は年末多端の折柄、その経営にかかるスポンジ加工業の人手不足に悩み、原告の母を通じて原告に労務提供方の申込をなし、原告はこれに応じて被告の右業務のために労務を提供することを約し十二月三十日朝から同日夕刻に至るまで、被告の指示にもとずき現実に労務を提供していたことが明らかであり、たとえその間に労務提供の対価たる賃金額及び労働時間等について明示的な取り決めがなされず、かつ、原告が同日及び三十一日の二日間だけ所謂アルバイトとして休暇中の余暇を利用して労務を提供する意思しかなかつたとしても、被告はその労務の提供を受領し、これに対しその提供した労務に対応した相当の報酬を支払う義務を負担していたものというべきであり、この当事者の関係からみれば、原告と被告間には黙示的に雇傭関係が成立していたものと解するのが相当である。 原告は、被告は右雇傭契約上使用者として原告のような未成年かつ未経験者に裁断器を操作させるについてはその安全を確保したうえで就業させる義務がある旨主張する。およそ労働者の就業中の安全を保護し、危害の予防、健康の保持等に万全の注意を払い労働者をして安んじてその業務にいそしみ得るように努めることは、使用者に課せられた重大な義務であること勿論であり、被告が使用者としてこれらにつき万全の措置をとつていなかつたことは前示認定の事情からも自ずと察知し得るところではあるが、これら使用者に課せられた義務はいずれも労働契約上の義務というべきであり、雇傭契約上の義務とはいい難いので、原告の受傷につき労働契約上の災害補償を求めるならば格別雇傭契約上の義務不履行を原因とする原告の本訴第一次の請求は、爾余の点につき判断するまでもなく理由がない。 そこで原告の予備的請求につき判断するに、労働契約上使用者が労働者に対して負担する安全義務は、前示のように雇傭契約上の債務とは認められないにしても、労働契約上の労働者の作業中における災害補償が無過失責任を規定している趣旨や、その義務が使用者の重要な義務と考えられる事情等を参酌すれば、使用者が著しくこれら義務に違背して労働者を就業させたような場合には、その行為は違法性を帯び労働契約上の注意義務違反として民事上の責任を負担すべきものと解すべきところ、原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、原告は当時僅か十四才余の中学生であり、労働経験を全く持たない少年であり、これが就業したスポンジ裁断器は刃渡り約二五糎の裁断刃をモーター回転により足踏式によつて上下させ、これに手で裁断台上に加工材料を差し込み型抜き裁断する作業であつて、年歯のいかない未習熟者には相当危険と考えられる作業であつたこと、被告は右作業に従事させるに際し極く簡単に操作方法を指示したのみでその後は全くこれを顧みず作業場にすらいないで、その危険防止、安全操業等に全く無関心で、原告に対する注意指導或いは適切な助言等を全く怠つていたこと、原告は単独で被告の指示した裁断作業従事中夕刻頃に至り、加工材料を手で裁断台に差し込んでいるうちに誤つて裁断刃を足踏みして右手人示指の上に落下させこれを粉砕切断するに至つた事実が認められ、この認定に反する証拠はない。してみれば被告は原告の如き未成年にして未経験者に右のような危険作業を行わせるについて、当然その機械操作方法を完全に教育指導して過誤なきを期すべきとともに、作業中もその動向に絶えず注意を払い、機械操作の習熟度、危険の有無等を絶えず観察、指導監督すべき業務上の注意義務があつたに拘らず、著しくこれに違背して就業させたため原告が未習熟のため操作を誤つて受傷するに至つたものというべく、被告は使用者として原告の右傷害によつて受けた損害につき、右注意義務違背を原因としてこれを賠償する義務があるものと解するのが相当である。 |