ID番号 | : | 04595 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 名古屋汽船事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 臨時雇用期間が終了したとして解雇通知を受けた船員が従業員としての地位を仮に定める仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 船員法37条 船員法38条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 成立 |
裁判年月日 | : | 1962年6月25日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和36年 (ヨ) 1131 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集13巻3号781頁 |
審級関係 | : | 控訴審/00183/名古屋高/昭40. 9.29/昭和37年(ネ)302号 |
評釈論文 | : | 松田保彦・ジュリスト327号121頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-成立〕 ところで雇入契約は海上労働の特殊性から船舶所有者が雇傭契約により雇傭した船員を乗船させるにつき船舶所有者と船員との間に締結される乗船契約であつて、雇傭契約の存続を前提とするものであるが、船員法は右雇入契約を通じて船員の保護をはかるという立前をとり同法第三一条において同法で定める基準に達しない労働条件を定める雇入契約はその部分については無効とすると定め、同法第三六条において船長に対し雇入契約における労働条件を海員名簿に記載し、海員に提示すべきことを命じ、更に同法第三七条第三八条において公認という手続を設けて船長に対して雇入契約の成立、終了、更新又は変更があつたときはこれを記載した海員名簿を行政官庁に提示して公認申請をなすべきことを命じ行政官庁は雇入契約が航海の安全又は船員の労働関係に関する法令の規定に違反することがないかどうか、又当事者の合意が充分であつたかどうかを審査するものとしている。公認のこのような目的から考えれば公認は行政官庁に対し雇入契約の内容を審査する機会を与え、もつて船員の保護について行政上の監督、指導を行おうとするにとどまり、雇入契約の内容そのものに関しては、審査の結果船員法第三一条により労働条件が法定の最低基準に達しない場合に右最低基準における履行を確保しその外船舶運行及び労働関係の法規に違反する条項の阻止をはかる等の措置に出る外は、船舶所有者と船員の間に有効に成立した雇入契約の内容を両者の意思にかかわりなく積極的に変更し得る性質のものではない。すなわち公認は行政官庁が船員保護の目的で船舶所有者と船員との間に有効に成立した雇入契約の成立、終了、更新又は変更の事実を認証する行政行為であつて積極的に既成の事実に対し直接変更を来たさしめるものではないというべきである。公認が右の如き性質を有するものであることに徴すれば、雇入契約が如何なる内容のものであるかは公認されたところによつて一応事実の証明があるものということはできるが、雇入契約条項が公認された如く確定するというべきものではなく当事者間の合意によつてこれをみなければならない。前記甲第一及び第四号証、乙第一号証の各記載、証人A、同Bの各証言並びに申請人本人尋問の結果によれば、申請人被申請人間には昭和三六年五月二〇日雇傭契約と同時に雇入期間乗船後三ケ月として雇入契約が締結され、被申請人は右に基きC船長D宛に右雇傭契約及び雇入契約の内容を明示した差遣状を交付したのに、同船長に代つて公認申請事務を行つたC船事務長Eは右差遣状の記載に反して無権限で海員名簿及び船員手帳に雇入期間を不定と記入し、公認申請をなしたことが疏明される。このように雇入期間は乗船後三ケ月と定められているに拘らず、申請をなすべき船長が事実に反し雇入期間不定として公認申請をなした結果前記の如く公認されるに至つたのであるが、船長は単なる公認の申請の手続をなすべき義務者に過ぎず、船舶所有者と船員との間に成立した契約内容を変更するが如き権限はないものというべきである。右の如く、公認が認証的効力を有するに過ぎないこと、船長が単なる公認申請手続義務者たることに鑑みれば、たとえ雇入期間不定として公認された事実があつても、当事者間に有効に存在する雇入期間は雇入契約条項どおり乗船後三ケ月であつて、公認により期間不定と変更されたものということはできない。したがつて雇入期間不定として公認された事実をもつて雇傭契約期間を不定と論断することはできない。 |