全 情 報

ID番号 04596
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 牡丹湯事件
争点
事案概要  公衆浴場でかまたき夫として雇われていた者が労働組合の支部長として組合活動のためしばしばその職場を離れ、その妻に一時的に労務を代替せしめたことを理由として解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働組合法7条1号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1962年6月26日
裁判所名 神戸地姫路支
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ヨ) 21 
裁判結果 認容
出典 労働民例集13巻3号795頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 被申請人は解雇の理由として第一に申請人が昨年(昭和三十六年)末以来本年二月にかけて午後六時以後も職場を時々離れ本年三月に入つてからは解雇されるまでの約半月間は風呂の温度調節をしばしば申請人の妻にまかせていたこと即ち勤務時間中の職場離脱を挙げているのでこの点に付いて考究する。
 就業時間中は労働者は完全な労働力の提供義務を負い使用者の許可を受けずに組合活動のために職場を離脱することは正当な組合活動の範囲を逸脱した行為ではあるが叙上認定の事実並びに口頭弁論の全趣旨に徴すれば
 申請人が時には町へ遊びに行くことがあるかも知れないが職場を離れた主たる理由は組合活動のためであつたと認めることができる申請人は専従者のいない極めて小さな労働組合の最高幹部たる支部長の要職にあり昭和三十六年末の団体交渉昭和三十七年三月の労働組合の改組等の活動特に本年三月に入つてからは前記要求書提出のための討議決議其の他の準備活動のために比較的時間を注がざるを得なかつたことを推認し得べく而も勤務時間は午前十一時半頃から翌日の午前一時頃迄の極めて不明確な長時間であつて午後六時頃迄に三回の燃料運搬業務に従事せねばならず申請人はこの義務は果していたのでありまた昭和三十四年十一月以降昭和三十七年三月迄約二ケ年半の永い間申請人の燃料運搬中妻が釜焚き風呂の温度調節の役目を充分果して来て居りこの事実は被申請人も永らく容認して来たのでありいわゆる釜焚きはさして高度の熟練技術を要するものとは謂い得ず二ケ年余りの年月の間に申請人の妻は少くとも風呂の温度調節の技術はこれを習得していたものと考えられる
 被申請人は風呂の温度湯量の調節が正常でなく浴客の苦情が絶えず客数が減少し非常な損害を受けた旨主張するが前認定の事実に徴すればこの原因は被申請人のY会社の施設の不備によるものであると推認し得る
 従つてかかる事情のもとに於ては申請人が妻をして一時的に労務を代つて履行させたとしても申請人に解雇に値する程重大な債務不履行が存在したものとは到底謂い得ない
〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 前段認定の事実並びに口頭弁論の全趣旨に徴すれば被申請人は申請人がかねてより姫路地方の労働組合の指導者として積極的に活動していたことに脅威を感じていたものであるが昭和三十六年末には経営者側と労働組合との間の団体交渉の仲介の労をとつたにも拘らず今回また前記要求書記載の如き要求を受くるに至つたので憤激し且つ一段と脅威を感じ申請人を当該企業から排除する意図をもつて申請人の職場離脱及び不正行為並びに企業合理化に藉口して解雇の意思表示をなしたものと認めるのが相当である