ID番号 | : | 04601 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 協同組合水戸駅観光デパート事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 売上金に不足を生じたことを理由に始末書の提出を求められ、これを拒否したレジスター係が職務上の指揮に従わず再三の警告にもかかわらず不当に反抗したとして懲戒解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 |
裁判年月日 | : | 1962年9月6日 |
裁判所名 | : | 水戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和35年 (ヨ) 81 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集13巻5号957頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 平岡一実・ジュリスト319号94頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-始末書不提出〕 成立に争いのない乙第一号証によると、就業規則第五八条には、従業員に対する懲戒事由を規定し、その(2)項において従業員が「故意怠慢過失又は不行届によつて事故を起し、或はこれによつて店の信用を害し又は損害を生じた時」、又(5)項において「職務上の指揮命令に対し再三警告を受けるも不当に従わずこれに反抗した時」は懲戒に付する旨定めていることが認められる。 ところで、本件売上金不足を生じたことについては、申請人の行為に過失があると断定できない以上、就業規則五八条(2)項又は(5)項に該当するとはいえない。又、被申請人が主張する申請人の違反事実は、申請人が始末書の提出命令に応じなかつたというにあるが、被申請人は本件事故発生後間もない昭和三四年八月二五日から本件懲戒解雇の直前である昭和三五年三月一三日までの間数回にわたり経理部長及び理事長が口頭をもつて、あるいは通告書等の文書をもつて申請人に対し前記内容の始末書の提出並びに不足金に対する弁償を求め、最後には弁償金はともかくとして始末書を提出することによつて一切を解決したいと申出でたのに対し申請人は本件は団体交渉で論議さるべき事項であるとの主張を譲らずこれに応じなかつたものであることは、前認定のとおりである。そして本件事故は申請人の過失によつて生じたものと断定できないことは前説示のとおりであるけれども前記の趣旨の始末書を提出することは業務に関連するもので申請人の義務と解すべきであるから、これを拒否することは就業規則第五八条(2)項には該当しないが同条(5)項には一応該当するものと認められる。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕 被申請人の前記就業規則第五九条においては、懲戒処分につき譴責、出勤停止、昇給停止、諭旨退職及び懲戒解雇の五種類に分別し、同規則第五八条(5)項に該当する場合これに対する懲戒処分として、出勤停止、昇給停止及び懲戒解雇を行うことができる旨定めている。ところで、およそ就業規則は使用者が一方的にこれを制定し得るものであるけれども、一度客観的に定立せられた以上は一つの法的規範として使用者及び従業員双方を拘束するに至るのであり、使用者が就業規則を適用するに当つても決して自由裁量が許されるわけではなく、該当事実存否の認定、情状の判定及び処分の量定等について慎重検討の上客観的に妥当な適用をしなければならない義務があるものといわねばならない。そして懲戒解雇は前述の如く従業員を終局的に当該職場から排除し絶対的に反省の機会を奪うもので精神的経済的に重大な不利益を与える処分であるから、違反行為の態様及び結果が重大かつ悪質である等情状の重いものでなければならない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 申請人が始末書の提出に応じなかつた行為は、改悛の見込なく情状の重いものとして即時解雇に値するものとは速断し難い。そして被申請人が、前認定の如く、出勤停止あるいは昇給停止の処分を考慮しないで一挙に懲戒解雇に処するということは苛酷であり、就業規則の適用上妥当な措置とは認められない。従つて本件懲戒解雇処分は客観的に妥当性を欠く処分であり、就業規則の適用を誤つたものとして無効であるといわねばならない。 |