ID番号 | : | 04602 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 相互自動車事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー運転手が料金を不正領得したとして懲戒解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1962年9月18日 |
裁判所名 | : | 函館地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和37年 (ヨ) 20 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集13巻5号988頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 成立に争いのない甲第四、五号証の各一、二によれば、申請人被申請人間の労働協約第二一条第二二条には「従業員に就業規則第五七条ないし第五八条に該当する行為のあつたときは懲戒を行う、懲戒の種類は譴責減給出勤停止待遇格下懲戒解雇の五種類とする」旨、就業規則第五八条には「従業員が同条列記の各号の一に該当するときは懲戒解雇に処する、但し情状酌量の余地あるときは待遇格下又は出勤停止にする」旨、同条第九号には「業務に関し不正に金品その他を受取り又は与えたとき」とそれぞれ規定され、同条各号に該当するときは原則として懲戒解雇する旨定められている。そして、申請人の前記認定の料金二二〇円の不正領得行為が右規則九号にいう業務に関し不正に金品を受取つたときに該当することは明らかである。申請人はその主張二、(一)記載のとおり主張するが、前記認定した申請人の料金不正領得行為の態様その発見にいたる経緯発見後における申請人の態度並びに申請人が以前にも同様の不正行為をして上司から注意をうけている等諸般の事情の認められる本件においては、被申請人において、申請人の前記不正行為が就業規則第五八条第九号所定の解雇事由に該当すると判断したのは違法でないと認められる。このことは、懲戒解雇が懲戒としては最も重く従業員の生活に重要な影響をもつ処分であり、かつ従来料金不正領得行為については直接の上司の裁量によつて正式に会社に報告されることなくみすごされた事案も存する事情を考慮にいれても、申請人の前記行為は、雇傭契約上の信頼関係を破壊するだけでなく、被申請人の立場からすれば右行為が一般化することによりひいて会社経営の基礎に動揺を来す事態を招くおそれありとして、これを厳重に取締ることはもつともであるから、本件の如く既に申請人の行為が明るみに出てしまつた以上他戒の意味からも申請人に対し懲戒解雇をもつてのぞむのはやむを得ないものと認められる。よつて、申請人の解雇権の濫用に関する主張は理由がない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 次に申請人は、本件解雇は労働協約第二二条第二号第三号に違反し無効であると主張するので判断する。同条第二号に「懲戒を行う事態の生じたときはその都度懲戒委員会を設けて審査する」旨、同条第三号に「懲戒委員会はその都度会社側より三名組合側より三名計六名の委員を選任して構成し審査の上決裁する」旨、就業規則第五八条前文には「従業員が左の各号の一に該当すると懲戒委員会の審査に基き会社が認めたときは懲戒解雇に処する」旨各規定されており、懲戒委員会における意見が可否同数の場合如何に処置するかについては労働協約に規定がないことは当事者間に争いがない。 ところで、甲第四号証の一、二(労働協約書)には、随所に、会社と組合とは「協議する」「協議決定する」なる文言が使用され、右協約書末尾の付属覚書には「協議する」とは会社組合双方の合意が成立しなかつたときは会社の意見による旨、「協議決定する」とは会社組合双方の合意が成立しなければ実施できないことである旨、それぞれ記載されている。しかるに、右協約第二二条は、懲戒委員会はその都度会社側より三名組合側より三名計六名の委員を選任して構成し「審査の上決裁する」旨規定するのみで、「協議決定」「協議」なる文言を使用していないことから考えると、同条にいう審査決裁とは、懲戒委員会における会社組合双方の委員が事案を審査し審査の結果に対する委員会としての統一的意見を決議することを意味すると解せられるが、同条を甲第五号証の一、二就業規則第五七条、第五八条と綜合して考察すれば、懲戒は懲戒委員会の審査に付し組合側の意見を聞いた上行うべきことを定めたもので、組合側の同意を必要とするものでないのはもちろん、懲戒委員会の審査に付し組合側の意見を聞いた以上、組合側の反対により委員会としての決議を経るに至らなかつた場合であつても、会社は、従業員の行為が就業規則第五七条、第五八条各号に定める事由に該当すると認めるときは懲戒を行うことができる趣旨を定めたものと解するのが相当である。 |