ID番号 | : | 04605 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 医療法人一草会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 精神病院の見習看護人が患者に対して傷害を働いたとして懲戒解雇されたことにつき正当な組合活動を理由とする不当労働行為であるとして争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係 |
裁判年月日 | : | 1962年11月5日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和37年 (ヨ) 902 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下 |
出典 | : | 労働民例集13巻6号1103頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 山口俊夫・ジュリスト323号127頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕 右解雇が解雇権の濫用であるとの主張について判断するに被申請人は申請人の行為が懲戒処分に値いするものであるとしながら敢えて懲戒解雇に付することなく、解雇予告手当を提供して通常の解雇に及んだというのであるから、本件解雇が正当といえるためにはその手続が通常の解雇によつたものであるとしても、解雇の理由となつた申請人の行為が懲戒解雇に相当するものでなければならない。そこで申請人の行為が懲戒解雇事由に該当するものであるか否かについて考えるに、申請人本人尋問の結果成立の認められる甲第一号証、第八号証、第一四号証、証人Aの証言によつて成立の認められる乙第五号証の四、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第三号証の各記載並びに証人Aの証言及び申請人本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。昭和三七年七月一七日午前九時一五分頃酒精中毒で入院中の患者B(三三才)が看護婦詰所に来て申請人に髭そり剃刃を要求したので、申請人が髭剃りは週二回ときめられていて今日は髭剃日でないから剃刃を貸せない旨述べたところ右Bは一旦は引きあげたが間もなく又詰所に来て申請人に対し再び剃刃を要求した。そこで申請人が再びこれを拒絶したところBは更に「院長に会わせよ」と要求したので、申請人はこれをも拒絶した。するとBは「貴様生意気だ」と言つて矢庭に申請人の左頬を手拳で殴打した。これにより申請人の口中が切れて出血したために申請人が口を手で拭つたところ血がついたので思わずかつとなつてBに飛びかかつて胸倉をつかんで引つ張つた。同じ頃患者のCが詰所へ飛び込んで来て背後からBを抱きかかえたが、申請人がBを引張つたために三人が一体となつて倒れ申請人がBを押えつけようとするのにBが暴れて申請人を二、三回殴つたので、申請人も手拳でBの顔面を三回位殴つてもみ合ううちに知らせを受けて駈けつけたD看護長等によつて取り鎮められた。Bは申請人の殴打により全治一〇日間を要する長さ二糎、深さ五粍の右上眼窩部割創の傷害を受けた。その日の午後申請人はBのところへ行き自己が殴つた非を謝り、Bもこれを了承したが、同月三一日申請人が解雇されるに及んで念のためBが和解した旨の文書を作成したことが認められる。右事実によれば申請人が患者Bを殴打しなければ自己の身の危険が避けられなかつたような特別の事情はないから、Bから矢庭に殴打されたのに憤激した結果Bを殴打するに至つたものである。申請人は見習看護人として予てから仮令患者が暴行してもこれに対して暴力を振るつてはいけない旨注意されており、これをよく自覚していたのであるから申請人の右の如き暴力行為が看護人としての職務に悖ることはいうまでもない。従つてこれに対し申請人が何等かの懲戒を受けることは免がれ難いところである。しかしながら、申請人が患者Bを殴打するに至つたのはBが再度規則外の要求をしたのを申請人に拒絶されて申請人を殴打したのが原因となつていること、申請人が右殴打により口腔内を負傷し血を見て興奮した結果Bを殴打するに至つたものであつて突発的の行為であり、特別に悪意があつたものとはみられないこと、傷害の程度がそれ程重大ではないこと、その直後申請人がBを訪れて謝罪しBもこれを了承して和解ができたことに徴すれば右の如き職務違反の行為は未だ懲戒解雇事由にはあたらないものといわなければならない。 |