全 情 報

ID番号 04609
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 玉野電機事件
争点
事案概要  受注の減少のための企業再建策として人員整理された者が、第一組合員であることを理由とする不当労働行為であるとして争った事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法89条1項3号
労働組合法7条1号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1962年12月26日
裁判所名 岡山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (ヨ) 211 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集13巻6号1225頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 被申請人は本件解雇は受注減少等のため企業の再建計画に基く人員整理であり、申請人らはいずれも被申請人主張の指名解雇基準にそれぞれ該当するものであつて、その具体的理由は別紙指名解雇理由記載のとおりである旨を主張するので、この点を判断して前記推認が覆えるか否かを検討する。
 (一) 人員整理の必要性
 成立に争いない疎乙第一三号証の一、二、同三二号証、前記疎乙第一七号証、証人Aの供述により成立の認められる同第一八号証、証人Bの供述により成立の認められる同第二一、二二号証ならびに証人C、同D、同E、同A、同F、同G、同Bおよび申請人本人X1の各供述によれば、次の事実が疎明せられる。
 (1) 会社はその仕事量の約九八%をH会社の下請発注に依存しているが、H会社において従来の電動ウインチに変り油圧ウインチが使用される傾向にあり、そのためH会社電機部の作業量が減少するとともに、その発注により藤井工場の作業量の約七五%を占めるウインチ関係の受注がなくなり、その生産にかなりの影響を受けることとなつた。したがつて、会社における収入額も昭和三五年度において一箇月約一、九六三万円であつたものが、昭和三六年度においては一箇月約一、二〇九万円に減少している。またH会社からの取下金も約半額に減少しており、将来の見通しも明るくなかつた。
 (2) 会社は従来作業量の繁閑の差に応じて人員整理をなしてきたが、このたびは昭和三六年一〇月一七日ごろから同年一一月九日までの間数回にわたり両組合に対し約七〇名ないし八〇名の人員整理の必要を説明してその協議を求め、その間希望退職募集を行なつてきた。しかし同年一一月六日までに約三七、八名の応募があつたのみで所定人数に達しなかつたので、同月八日両組合に対し前記指名解雇基準(疎乙第二二号証)を読み上げて協議を求めたが、両組合ともこれに応じなかつた。そこで会社は翌九日団体交渉を打切つて本件解雇に至つた。
 証人Iの供述により成立の認められる疎甲第一九号証の一、二および成立に争いない同第二五号証により疎明せられるH会社下請企業の失業保険受給資格認定の受付数等も疎乙第七号証に照らしてただちに右認定を覆すことはできず、その他右認定を覆すにたりる疎明はない。
 しかし、一方原本の存在および成立に争いない疎甲第二〇号証の一ないし四、証人Iの供述により成立を認められる同号証の五、六および証人Bの供述により疏明される会社が昭和三七年中学卒業者三〇名の求人案内をなし、昭和三六年六月二九日職業安定所に対し六二名の求人募集をしていたこと、(もつとも右求人募集につき会社は同年九月八日ごろ口頭で、同月二五日文書でこれを取消したことが前掲証拠により疎明せられるが、右取消の理由について、H会社千葉工場の操業予定が延期されたため求人の必要がなくなつたのであるという右B証人の供述を信用するとしても、一方では会社が受注減少による人員過剰を主張し、同証人の供述によれば、すでに同年七月ごろから人員整理の話が出ていたというのに、右取消をしたのは前記同年九月四日の従業員一三名の解雇発表後であつた点、いかにも不可解である。)同年八月末現在の会社の従業員数は被申請人主張によれば約二四五名であるところ、その後前記のとおり希望退職者があつたりして、本件解雇当時の会社の従業員数は約一七五名になつたのであるから、すでに二箇月余りの間に従業員数の約三分の一近い七〇名も減少していること、証人Bおよび被申請人代表者Jの各供述により疎明される会社は現に一部従業員に対して臨時休業を指示しているけれども、また将来における事業の見通しも期待できないとはいいながら、その後残存従業員を解雇することもなく操業していること等の事情がある。
 右双方に掲げた事情を彼此考察するとき被申請人主張の人員整理の必要があつたものとはたやすく断定できないところである。
 (二) 申請人ら解雇の個別的理由
 会社が本件人員整理に関する団体交渉において昭和三六年一一月八日第一組合に対し示した指名解雇基準が、会社主張のものと同一のものであることは前記のとおりである。
 しかして、被申請人は各職場の人員構成等を考慮のうえ右指名解雇基準に基いて本件解雇をしたもので、申請人らに対する指名解雇の理由は別紙指名解雇理由記載のとおりである旨を主張し、証人A、同Bの各供述によれば、会社は昭和三七年一一月五日から副社長、船電主任、陸電主任との間で被解雇者の選定をなしたことが疎明せられる。しかし、会社が本件解雇当時その指名解雇理由を明示しなかつたことは、申請人本人X1、同X2の各供述により疎明せられるところであり(本件訴訟において、被申請人がその主張する指名解雇理由を明らかにしたのは、昭和三七年五月一二日付準備書面であつた。)、このこと自体会社が確固たる根拠のもとに本件解雇をしたものかどうか疑わしく、被申請人の主張或いは全疎明を以てしても申請人らが全従業員中先ず解雇せられるべき者であるとするに足りず換言すれば被申請人が本件訴訟において主張する解雇理由が、本件解雇の決定的原因であつたとは到底認めがたい。
 三 以上のとおりであるから、会社が昭和三六年一一月一一日および一三日の両日にわたり申請人らに対してなした同年一二月一五日限り解雇する旨の意思表示は、解雇権らん用の点を判断するまでもなく、労働組合法第七条第一号該当の不当労働行為として無効である。
〔解雇-解雇の承認・失効〕
 申請人X3、同X4、同X1が、それぞれ被申請人主張の日時に、会社が本件解雇当時供託していた各自の退職金を受領したことは当事者間に争いがない。しかし、右受領の時期はいずれも本件仮処分申請後のことであり、右申請人三名が解雇の効力を争つているときに受領したものであるから、単に退職金を受領したというだけでは、いまだ右申請人らが各自に対する解雇の承認をしたものとはいい難い。