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ID番号 04610
事件名 解雇無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 川崎重工業事件
争点
事案概要  いわゆるレッドパージに際して合意解約の申入れとともに退職の申込みを勧告し、一定期限までに合意解約の申出がないときには右期限の翌日限りで解雇する旨の期限付解雇の意思表示がなされたことを受けて、右勧告に応じて退職願が提出され合意解約が成立したとされた労働者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法3条
労働基準法2章
民法93条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
退職 / 合意解約
退職 / 退職願 / 退職願と心裡留保
裁判年月日 1963年2月18日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ネ) 473 
昭和31年 (ネ) 474 
裁判結果 一部取消,棄却
出典 労働民例集14巻1号46頁
審級関係 一審/05367/神戸地/昭30.12.26/昭和27年(ワ)928号
評釈論文 保原喜志夫・新版労働判例百選〔別冊ジュリスト13号〕72頁
判決理由 〔退職-退職願-退職願と心裡留保〕
 次に、会社が右(ロ)記載の原告等の関係で辞職願の受理又は餞別金等の交付当時、原告等の真意を知り又は知り得べかりしものであつたか、どうかを検討する。
 上来すでに説示したように、右原告等は辞職願を提出して餞別金等の支給を受ける際、何等の異議を留めなかつたが、餞別金は、辞職願を届出た者にのみ支給され、辞職願を提出しない者には支給されないことが原告等の受領した本件整理通知書に明記されており、辞職願を提出するか否かの差異は、餞別金を貰えるか否かの一点に存したことは、原告等の熟知するところであつた。しかも、会社側は、いささかでも異議をさしはさむような者の辞職願は受理せず、これに餞別金を支給しない建前にしていた。したがつて、右原告等が餞別金を得ることを目当てに辞職願を提出するものである以上、辞職願の提出、餞別金の受領に当つて異議を留めよう筈もなかつたのである。又原告等の申請にかかる前記地位保全の仮処分事件について、会社が原告等の辞職願を受理して餞別金等を交付した前記一〇月二三日当時(ただし、原告Xについては、同月二〇日)に右事件の係属を知つていたとか、知り得る状況にあつたとかの事実は、これを認めるに足る証拠は何等存しない。さらに、被整理者の間でも、組合の反対闘争の放棄等四囲の情勢が被整理者に不利に進展し孤立無援の破目に追いやられた中にあつて、あくまで闘うことを言明して辞職願を提出しない者がある半面、会社が組合の要求を容れて延長した退職勧告期間の最終日である一〇月二三日に相次いで辞職願の提出をみるに至つた、という前記認定事実から推して、会社側が、当時、これら辞職願の提出は、四囲の情勢上、被整理者において闘争意欲を失い、本件整理措置を争わない趣旨のもとになされるものであると受取つたとしても、けだし、やむを得ないところであるといわなければならない。辞職願を提出すれば円満退職とみられるおそれのあることを原告等自身、すでに予期していたことを思えば、会社側が辞職願の受理、餞別金の交付当時、円満退職と信じたとしても、これをとがめることはできないであろう。
 したがつて、以上の事実に徴すれば、会社は、原告等の辞職願の受理および餞別金の交付当時、原告等に合意退職する意思のなかつたことを知らなかつたし、又知り得べかりし状況になかつたものと認めざるをえない。この点に関して、原告の主張を認めて右認定を動かすに足る的確な証拠はない。したがつて、この点に関する原告の主張は理由がない。
〔退職-合意解約〕
 本件整理通知書にふくまれる合意退職の勧告は、同通知書に合わせふくまれた期限付解雇の意思表示の作用によつて原告等に詰腹を切らせる結果となつたものというべきであるから、会社の右期限付解雇の意思表示は、原告等と会社との間に成立した合意退職と相当因果関係に立ち、しかも右勧告による合意退職は会社の整理(解雇)意図の実現形式にほかならないから、もし会社の期限付解雇の意思表示に不当労働行為的意図その他の公序良俗に反するような意図が存するとすれば、本件合意退職も亦、無効に帰するものといわなければならない筋合いである。
 しかし、被告の本件解雇の意思表示が就業規則によらないとか、就業規則違反の事実がないのにしたとか、懲戒手続をとらないとか、解雇権の乱用とかの理由によつて無効であるというような、未だ公序良俗違反の程度に達しない無効事由については、これらの無効事由は合意退職の無効をも招来すると解すべきではなく、合意退職における当事者の任意性がこれらの無効事由の違法性を遮断するものと解するのを相当とする。
〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 被告挙示のマ書簡を通じ、連合国最高司令官は、日本共産党の暴力的破壊行動の煽動とこの煽動による無責任、不法の少数分子による「法に背き、秩序を乱し、公共の福祉を損」う危険の明白性を警告しているが、同司令官は、前記七月一八日附書簡によつても日本共産党自体を非合法化するものではなく、又同書簡においていわゆる「その他の重要産業」をふくむ「すべての分野のもの」に対し、朝鮮動乱にともなう分担責任の誠実な遂行を指示したものであるとしても、単に共産党員又はその支持者であるという理由だけで「その他の重要産業」からこれらの者を排除し得ることまで指示するものとは解せられない