全 情 報

ID番号 04620
事件名 給与支払請求事件
いわゆる事件名 高知県事件
争点
事案概要  賃金の過払いに対する相殺と労基法二四条一項の全額払の原則の関係につき、賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、かつ、その額が労働者の経済生活をおびやかす結果とならないときは、右原則に違反しないとされた事例。
参照法条 労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 1963年4月1日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (行) 14 
裁判結果 棄却
出典 行裁例集14巻4号890頁/教職員人事判例3号226頁
審級関係 控訴審/00962/高松高/昭39. 4.16/昭和38年(ネ)114号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕
 前記被告の減額は、被告の原告らに対して有する昭和三四年一〇月五日分の給与の返還請求権を自働債権とし、原告らの被告に対して有する同年一一月分の給与支払請求権を受働債権とする相殺というべきである。よつて右相殺の適否につき按ずるに、地方公務員法第五八条第二項により地方公務員に適用される労働基準法第二四条第一項は、同項但書において除外される場合の外は、賃金は、通貨で直接労働者に、その全額を支払わなければならない、旨規定し、これにより労働者の生存権を保障することを目的とするものであるから一応使用者は労働者に対して有する債権を以て賃金債権との相殺をなすことが許されない趣旨を包含するものと解すべきである。もつとも、相殺の禁止については、同法第一七条の規定が存するが、同条は、従前屡々行われた前借金と賃金債権との相殺が、著しく労働者の基本的人権を侵害するものであるから、これを特に明示的に禁止したものと解するを相当とし、同法第二四条の規定があるからといつて同法第一七条の規定が無用の規定となるものではなく、また同法第一七条の規定があるからといつて、同法第二四条の趣旨を前記のように解することに何ら妨げとなるものではない(最高裁判所昭和三六年五月三一日大法廷判決、同裁判所判例集第一五巻第五号一四八二頁以下)。そこでさらに同法第二四条第一項が、同条項但書の場合を除くの外本件の如き相殺をも絶対的に禁止するものであるかについて検討するに、もとより同法条の前記立法趣旨、同条第一項但書に例外規定を設けた趣旨に照らし、これを厳格に適用すべきは当然であるが、本件のように、前月分の過払賃金の返還債権を以て当月分の賃金債権と相殺する如きは、賃金相互間の調整ないしは清算としての意味を有し、従つて当該賃金相互を通じてみれば、結果において全額払をなしたのと異らず、同じく相殺であつても賃金とは無関係な他の債権を以てする相殺とは実質的に異る。かかる相殺にして上記のように給与の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、かつ相殺額にして労働者の経済生活をおびやかす結果とならない場合は、前記法意に照らしこれを禁止すべき理由はないのみならず、むしろこれを許すことが却つて使用者のみならず労働者にとつても便利である。原告主張のように、かかる相殺をも一律に禁止すべしとなすのは法規の形式にとらわれた解釈であつて同法条の律意とは解されない。