ID番号 | : | 04621 |
事件名 | : | 仮処分控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 弘南バス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 組合員の昇格・賞罰に関する協約上の協議条項違反の懲戒解雇が無効とされた事例。 組合活動や争議行為を理由とする懲戒解雇が無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働組合法7条 労働組合法16条 民法1条3項 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項 |
裁判年月日 | : | 1963年4月24日 |
裁判所名 | : | 仙台高秋田支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和35年 (ネ) 76 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集14巻2号587頁 |
審級関係 | : | 一審/04560/青森地弘前支/昭35. 5.27/昭和35年(ヨ)38号 |
評釈論文 | : | 宮本安美・季刊労働法53号118頁/慶谷淑夫・ジュリスト320号112頁 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕 協約第二九条本文の「賞罰」には懲戒解雇処分が含まれること明らかであり、同条は、当該処分に関する限りでは、会社の人事の適正を確保し、組合員の従業員たる地位の安固を図るため、組合をして会社の人事権の行使に参加させ、もつてその人事権の恣意的行使を制限しようとする経営参加条項であつて、労働契約関係の終了という労働者の待遇に関する最重要事項にかかわりをもつものであるから、同条の目的、趣旨に徴し、同条の定める協議手続に違反する懲戒解雇処分は債務不履行の責任を生じさせるにとどまらず、当該処分自体も無効となるものと解するのが相当である。 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕 組合文書の無許可掲示の許容が慣行化している場合には、使用者において、無許可掲示が慣行の範囲を逸脱して使用者の業務を妨害しまたは妨害するおそれがあることその他の合理的理由なくして、一方的に慣行を否認し、無許可組合文書の掲示を禁止することは、組合活動を不当に抑圧するもので、組合運営の支配、介入であり、また施設管理権を濫用するものというべく、許されないところであるから、右禁止にかかわらず、組合文書を掲示しても、その掲示は、従来の慣行の範囲内にとどまる限り、正当な組合活動であり、使用者においてもこれを受認すべきであると解するのが相当である。 〔中略〕 使用者が会社施設を使用する無許可の職場集会を黙認する状態を継続してきながら、無許可集会が黙認の範囲を逸脱し使用者の業務を妨害しまたは妨害するおそれがあることその他の合理的理由がないにかかわらず、一方的に右黙認を撤回し、さらに進んで、職場集会のための会社施設の使用許可願を相当の理由なくして許容しないことは、組合活動を不当に抑圧するもので、組合運営の支配、介入であり、また施設管理権を濫用するものであつて許されないところであるから、従来の黙認の範囲内において職場集会が開催される限り、その開催は正当な組合活動であり、使用者においてもこれを受認すべきものであると解する。 〔中略〕 控訴会社は右認定の被控訴人らの行為に対して前示就業規則第二〇八条第一三号、第一九号、第二〇号を適用したと主張するが、右各号に該当する行為は、前掲疏甲第二号証によると、就業規則第二〇九条の規定により、原則として、極刑処分ともいうべき懲戒解雇をもつて処断されることになつていることが疏明されるから、右各号がその構成要件に該当する行為として予定しているものは、企業外に排除することを相当とする程度の反価値性を有する、職場秩序、規律違反であると解するのが相当である。この見地から本件をみるに、昭和三五年三月三一日、翌月一日、二日の各職場集会における労働歌の合唱は喧噪をきわめ、業務阻害の結果を生じているけれども、その合唱はいずれも約二分のきわめて短時間のものであり、また前叙(一)、(二)の認定事実からみて、臨時守衛に対する対抗措置としてなされたものであることが容易に推認されるところであるから、控訴会社としては右合唱を強くとがめうる立場にあるものではなく、右合唱の反価値性はきわめて軽微で、懲戒解雇に値するものとは認められない。 〔中略〕 まず、指名スト参加者の職場立入、滞留の適否についてみるに、前叙二で認定したように指名ストは運転部門以外の少数の組合員により実施され、控訴会社の業務はほとんど平常どおり運営されていたのであるから、かかる場合には、指名スト参加者が組合活動の目的をもつて職場に立ち入り、滞留することは、それ自体が控訴会社の業務を妨害するものでない限りは、労使対等の実現の見地から、正当な争議行為として許容さるべきものと解するのが相当である。もつとも、右滞留中の組合活動が正当な組合活動の範囲を逸脱し、業務を妨害し、職場秩序に違反するときは、これに対し懲戒責任を追及しうることもちろんである。本件の場合、指名スト中組合活動の目的でなされた被控訴人らの職場立入、滞留は、それ自体により控訴会社の業務を妨害したことの疏明はないから、正当な争議行為というべく、これを懲戒解雇の対象となすことは許されない。そして、右滞留中被控訴人らのなした前叙(一)、(二)認定の組合活動はいずれも懲戒解雇の対象となし得ないものであることは前叙説示のとおりであるから、被控訴人らが指名スト中職場に立ち入り組合活動をしたことをもつて懲戒解雇に処することは許されないものといわねばならない。 つぎに、出勤停止中における被控訴人らの職場立入、滞留をみるに、出勤停止処分が昭和三五年三月二一日の無許可集会の開催および警告、制止無視を理由とするものであることは前叙認定のとおりであるが、右無許可集会は前叙(二)説示のとおり従来の黙認の範囲内にとどまり、控訴会社はこれを受認すべきであつて、右無許可集会の開催および警告、制止無視はこれを懲戒処分の対象となし得ないものであるから、右出勤停止処分は被控訴人らの主張するように許されないものであり、無効であるといわねばならない。したがつて、当該処分の定める出勤停止期間中における被控訴人らの職場立入、滞留を出勤停止中の行為であることを理由として懲戒処分の対象となすことを得ない。そして、右滞留中に被控訴人らがなした前叙(一)、(二)、(三)認定の組合活動は懲戒解雇処分の対象となし得ないものであるか、または懲戒解雇処分に値するほどの反価値性をもたないものであることは前叙説示のとおりであるから、被控訴人らが出勤停止中に職場に立ち入り組合活動をしたことをもつて懲戒解雇に処することは許されない。 |