全 情 報

ID番号 04623
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 三重宇部生コンクリート工業事件
争点
事案概要  何人も信教の自由が保障されており会社の行なう宗教行事に出席する義務を従業員は負わないとされ各行事での言動を理由とする懲戒解雇が無効とされた事例。
参照法条 日本国憲法19条
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1963年4月26日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ヨ) 76 
裁判結果 認容
出典 労働民例集14巻2号668頁/時報333号10頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 先ず申請人が講習途中においてA団体より帰社を命じられたことが、被申請会社の名誉信用を傷つけたものであるかどうかを考える。申請人が帰社を命じられたのは申請人が祓詞の朗読および神宮参拝の仕方の講習に加わらず、B神社に参拝しなかつたこと、道場長の講義に抗議論争したことによるものであるが、祓詞の朗読および神宮参拝の仕方の講習は神道の行事の練習行為であり、神宮参拝は神道の行事であることは明らかである。しかし、信教の自由は何人に対しても保障されていることは憲法の明定するところであり、その信教の自由はかかる宗教的行事をなすことおよびなさざることの自由をも包含するものであるというべきである。
 従つて仮令講習の課目として行われるものであつても、申請人が自己の信仰する宗教と異なる宗教の行事に参加することを拒むことは権利として保障されているものであつて、申請人が右の行事に加わらなかつたことは何等非難さるべきものではない。又申請人が道場長の講義に対し抗議論争したことについても、道場長は神道的立場からC宗教と察知される宗教を誹謗し、その開祖の行動を述べたのであるが、これに対し誹謗された宗教を信仰する者が抗議をなし、又自己の宗教の立場から事実の誤りを指摘することは、その宗教を信仰する者にとつて宗教上の信念の表現行為というべきものであつて、その態度が穏当を欠いていない限り、何等非難さるべき行為ではなく、本件において申請人の抗議論争の態度において格別穏当を欠くものと認むべき疏明もない。
 然らば申請人の講習会における前記の如き行動は権利として保障されたことを行つたものであり、又宗教的信念の表現行為に出たもので敢えて非難を受けるが如き行動ではないものであつて、これに対しA団体が帰社を命じたのは単に自己の宗教的立場からしたものであり、申請人の責に帰すべき事由に因るものではないものというべきである。従つて申請人の前記行動は従業員としての品位を汚したとはいえず、且つ被申請会社はA団体の説くところがその修養の実体からみて申請人の宗教上の信条に反することを充分に察知し得たに拘らず敢えて講習会に参加させたことをも考慮すれば、就業規則第四〇条第一〇号、第四一条第五号に懲戒解雇事由として掲げられた「会社の名誉、信用をきずつけたとき」には該当しないものというべきである。