ID番号 | : | 04630 |
事件名 | : | 地位保全仮処分命令申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 京浜電測器事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 二年前の横領行為を理由とする懲戒解雇につき、その損害の賠償をしていること等からみて、懲戒権の濫用にあたり無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1963年5月28日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和37年 (ヨ) 2118 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 時報344号49頁/タイムズ146号125頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 被申請会社は、前示就業規則七七条に、「懲戒は譴責、減俸、解雇とする」と規定し、軽重三段階の懲戒処分を定めているが、かゝる場合、使用者が非行のあつた労働者に対しいずれの懲戒方法を選択するかは、元来、使用者の自由な裁量に委ねられている。しかし、使用者のこの点に関する判断は、つねに、懲戒処分の対象となる非行の程度に応じ、客観的にその裁量の限界を著しく逸脱したものでないことを要し、ことに、使用者が懲戒解雇処分を採択するためには、現下の労働経済情勢の下では、一般に、懲戒解雇処分をうけた労働者の生計が直ちに重大な障害をうけることはもちろん、退職金請求権を失い、再就職の機会すら困難となるものと認めなければならないので、その労働者を企業から排除しなくとも企業の秩序を維持することができる程度の非行に対する場合に懲戒解雇処分をもつて臨むことは懲戒権の濫用として許されないものと解すべきである。〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 本件の場合、申請人の前示二の1の横領行為は本件懲戒解雇の時から約二年前のことであるばかりでなく、(疎明-省略)によると、当時A株式会社から印刷代金の支払催促を受けた組合の執行委員会が申請人に対しこのことを注意するや、申請人は、直ちに、他から金策して右印刷代金の全額を支払い、組合の執行委員会あてに謝罪状を差入れて、その非を詫び、以後再びこのようなことを繰り返さないことを誓約したので、執行委員会もこれを了解し、事は、執行委員会限りで処理され、一般の組合員に対しては公表されることもなく、既に解決済みであることが認められる。また、申請人の前示二の3の「不都合行為」は、その性質は必ずしも軽視することはできないが、既に述べたところによつて明かなように、被申請会社が被る虞れがあつた損害の額は僅少であるばかりでなく、申請人は、被申請会社から、このことについて詰問を受けるや、即日自らB商店に対してオートワックス代金を支払つたのである。 以上、諸般の情状を酌量すると、申請人の前示非行は、申請人を被申請会社から排除しなければ、企業の秩序が維持することができない程に重大であるとは認められず、これについては、申請人を譴責、減俸の懲戒処分に付するならば格別、直ちに懲戒解雇をもつて臨むことは、懲戒権の濫用であるといわなければならない。従つて、本件解雇の意思表示は、懲戒権の濫用して、無効であり、申請人が被申請人に対し、なお、現に、雇傭契約上の権利を有する地位にあることは明かである。 |