全 情 報

ID番号 04635
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 大村タクシー事件
争点
事案概要  就業規則作成・変更にさいしての意見聴取につき、労働者に対してその意見を陳述しうる機会と余裕を与えれば足りるとされた事例。
 傷害等を理由とする懲戒解雇につき、権利濫用にあたり無効とされた事例。
 タクシー会社の争議行為に関し、営業車を外部に持ち出して保管したことを理由とする懲戒解雇が権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法90条
体系項目 就業規則(民事) / 意見聴取
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1963年8月27日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ヨ) 81 
昭和37年 (ヨ) 82 
裁判結果 認容・却下
出典 労働民例集14巻4号1043頁/時報354号39頁
審級関係
評釈論文 渡辺章・ジュリスト335号133頁
判決理由 〔就業規則-意見聴取〕
 およそ、就業規則は、本来使用者の経営権の作用として一方的に定めうるところであり、労働基準法第九〇条第一項に定める就業規則の作成、変更の要件としての意見聴取とは、労働者の意思尊重のための手続であつて、労働者に対してその意見を陳述しうる機会と余裕が与えられるべきことを意味するが、労働者が事実上意見を陳述したか否か、もしくは、使用者がこれを採用するにいたつたか否かはこれを問わない(労働者が反対意見を付しても、その意見は拘束力を有するものではない。)ものと解するのを相当とするから、右のような事実関係のもとにおいては、その意見聴取の手続は、十分につくされたものと解すべきものである。また、就業規則の届出について組合の意見を記載した書面を添付することは、絶対的な必要条件ではないのであるから、就業規則作成または変更にあたり、組合の意見を求めたが組合から具体的意見がない場合、使用者が組合の意見を記載した書面の添付に代え右の事情を具して所轄行政官庁に就業規則の届出をした場合は、この規則は有効に制定または変更されたものと解するのが相当であるから、右のようにことここに出でた本件就業規則の改正もまた、有効になされたものと解すべきものである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 被申請会社側には、かねて、組合役員に対し地区労からの脱退を勧めたり、組合員に対し組合からの脱退を誘いかけたりなどするのいわゆる組合の切りくずし的な行為が存し、組合員の不満を買つていたこと、昭和三七年六月一八日、右Aが前記Bに命ぜられて運転員の勤務時間表を作成し、これを前記大村駅前営業所に掲示したのであるが、その記載に誤りがあつて、従前のそれと比較し、内容的には運転員にとつて経済的に不利となつていた(この点被申請会社側に故意が少くとも過失があつたものというべきである。)ため、結局、これに端を発し、組合側が同日午後九時以降の時間外就労を拒否する旨を被申請会社側に通告し、さらに営業中の自動車の帰参状況を考慮して就労拒否を同日午後一〇時からと変更したところ、前記のとおり、同時刻以前に右Aが車検証等のひきあげにやつてきたこと、同人は、もともと組合結成の最も熱心な主唱者であり、同人の指導もあつて、前記組合の結成にまでこぎつけ、その結成にあたつては、組合役員の一人に擬せられていたのであるが、その後一方的に組合への加入を拒否したため、かねて組合員からは快い感情をいだかれていなかつたことをそれぞれ一応認めることができ、これに反する証人Aの証言は、にわかに信用することができないし、他に右認定を左右するに足りる疏明はない。そして、右の事実に前認定事実を考えあわせると、右Aに対する前記の暴行並びに業務妨害の所為は、右のような平素のおよび当日の被申請会社側および前記組合側の事情並びに状況のもとにおいて、かねてからの右Aに対する悪感情も手伝い、一時に激昂した末、たまたま惹起したものであり、また、前記のCに対する暴行も、本人がその場に居合わせたため、感情の激するところ、たまたまその余波をこうむつたまでのことであつて、いずれも真に偶発的なものであつたことが推認でき、それらが被申請会社の経営秩序破壊もしくは生産性阻害の悪意から出た悪質なものとも思われないし、また、特に経営秩序破壊または生産性阻害の結果が現実に発生したことも、右申請人らに将来改善の見込みがないこともいずれも認められない。以上の事実を総合して考えると、右のような申請人らの所為があつたからといつて、右申請人らを被申請会社の企業内に存置せしめることが企業の経営秩序をみだしその生産性を阻害することが明白であつて、しかも同申請人らに将来改善の見込みがとぼしい場合にあたるものとはとうていなしえないから、被申請人が右の申請人らの所為を前記就業規則第二九条第五号所定の事由に該当するものとしてなした右申請人らに対する本件懲戒解雇処分は、同就業規則の適用を誤つた違法があるか、または懲戒解雇権行使の正当な範囲を逸脱した権利濫用の違法があるものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 本件においては、右申請人らのとつた行動は、前認定のとおりであつて、これによると、なるほど、右の車輌等組合保管の手段の実行により、結果的には、一時的に被申請会社の企業を乱し、その生産性を阻害したかもしれないが、右申請人らとしては、当初は右のような手段の実行を企図していた者の意のままにその事情を知らないで各自の受持車輌を運転して前記地区労事務所に集結し、ここではじめて組合大会の決議にもとづいて右手段の実行に同調し、それから後の行動は、すべて組合の意思決定にしたがつたまでのことであつて、そこにはなんら積極的なものは見受けられないのであるから、その責めは主として右のような手段を首謀しその実行を指導し推進させた者に対して向けられるべきものであつて、これらの者に対する責任の程度は、右申請人らとは自ら別個に考えられるべきものであり、また、同申請人らとしては、右のような手段の実行については同種企業の労働争議において他にも事例が存したため安心感をいだいたことであろうし、もしそれが違法とわかつておるならば、おそらくはたやすくこれに同調加担はしなかつたであろうことがうかがわれるうえ、同申請人らは、車輌組合保管中、各自の受持車輌に対してある程度の手入れをなして、自己の受持車輌に対する愛車精神を忘れなかつたとともに、これにより被申請会社のこうむる損害を少くし、一方、組合もまた、車輌の保管場所として同じく組合員である申請人X方附近を選び、その目的意思はともかくとして、その車輌の前面に柵を施しこれを監視したというのであるから、これらの諸事情を総合して考えると、右のような申請人らの所為があつたからといつて、右申請人らを被申請会社の企業内に存置せしめることが将来企業の経営秩序をみだしその生産性を阻害することが明白であつて、しかも同申請人らに将来改善の見込みがとぼしい場合にあたるものとはとうていなしえず、したがつて、被申請人が右の申請人らの所為を前記就業規則第二九条第二号、第三号、第一四号所定の事由に該当するものとしてなした右申請人らに対する本件懲戒解雇処分は、苛酷に失し(ここで、前記乙第一号証によると、右就業規則第二八条所定の前記懲戒処分該当事由中には、被申請人主張の右事由と共通性もしくは類似性のあるもののあることが認められることを指摘しておこう。)、同就業規則の正当な適用を誤つた違法があるか、または懲戒解雇権行使の正当な範囲を逸脱した権利濫用の違法があるものというべきである。