ID番号 | : | 04640 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 全日本検数協会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 「従業員が退職しようとするときは、事由を詳記した退職願を提出し、使用者の承認をうけなければならない」旨の就業規則の規定につき、書面による退職の申出がないかぎり退職者として取り扱われないことを保障したものであり、本件退職願の意思表示が心裡留保にあたらないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法93条 |
体系項目 | : | 退職 / 退職願 / 退職願と心裡留保 |
裁判年月日 | : | 1963年9月30日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和38年 (ヨ) 193 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集14巻5号1333頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小西国友・ジュリスト334号144頁 |
判決理由 | : | 〔退職-退職願-退職願と心裡留保〕 四、申請人は、右意思表示は申請人の真意ではなく、A一人が被申請人の処分を受けることに対し、共に行動した者としての責任感から処分に抗議する意図に出たものであつたと主張し、この事実は前示認定のようにその前後の状況からこれを窺うことができるが、更に進んでこの退職の意思表示が申請人の真意でなかつたことをB総務次長が知つていたこと、又はその当時知り得べき状況にあつたことを疎明するに足る証拠はない。よつてこの退職の意思表示が心裡留保のため無効である旨の申請人の主張は理由がない。 五、次に、申請人は、被申請人の就業規則第四〇条には、「従業員が退職せんとする時は、事由を詳記した退職願を提出し、協会の承認を受けなければならない。」との定めがあるところ、申請人は被申請人に対し退職願を提出したことはないから、退職の効力を生じないと主張するので判断するに、上述の当事者間に争のない事実および前認定の事実により明らかな退職の意思表示がなされるまでの経過、状況に徴すると、申請人らはことの行きがかり上、退職する旨の意思を表示したものの、それは双方のやや感情的なやりとりの末なされたものであつて、しかも個別的に意思を表明したのではなく、問に対して数人が集団的に肯定の態度を示したにとどまるから、明確かつ決定的に退職の意思を明らかにしたものとはいい難く、又申請人らには退職として取扱われているのか解雇として取扱われているのかすら判然とせず、解雇されたのではないかとの疑問をもち、申請人らがそう解しても無理からぬ事情もあつたといわねばならない。そこで、被申請人の就業規則第四〇条について考えると、そもそも就業規則の制定作成は、使用者が一方的になすところであるけれども、一旦制定された就業規則はその企業における労使双方に妥当する制約として被傭者の利益のためにも使用者を拘束するものというべきところ、被申請人の就業規則第四〇条に定めるところも、一方、被傭者が退職するに際し、その時期、事由を明確にして、使用者に前後措置を講ぜしめて企業運営上無用の支障混乱を避けると共に、他方、被傭者が退職という雇傭関係上最も重大な意思表示をするに際しては、これを慎重に考慮せしめ、その意思表示をする以上はこれに疑義を残さぬため、退職に際してはその旨を書面に記して提出すべきものとして、その意思表示を明確かつ決定的なものとし、この雇傭関係上最も重要な法律行為に紛糾を生ぜしめないようにするとともに書面による退職の申出がない限り退職者として取り扱われないことを保障した趣旨であると考えねばならない。 とすると、本件の場合の如く、一応申請人の退職の意思表示がなされたといい得る場合であつても、前後の事情から必ずしもそれが明確かつ決定的ではなくて、その真意に疑義が残り、冷静にかえれば双方に再考の余地が充分にあり、(ちなみに、申請人らの七月二八日の休務は、疎乙第一号証の就業規則第二一条の定めるところによれば明かに無断欠勤であつて、その責は申請人らに帰せらるべきことは論をまたない。)又解雇されたのではないかとの申請人の疑問を残しているようなときに、被申請人が申請人の退職願書の提出を待つてその意思の個別的で、明確かつ決定的な表示を確認せずに、退職の意思を表示したものとして固執し、そのような取扱をすることは、雇傭関係上最も重要な意思表示に相応の配慮を用いたものとはいえず、相互に感情に走り、軽卒におち入つたものというほかなく、被申請人の就業規則第四〇条の趣旨に照し、申請人が退職願書を提出していない現在ではいまだ退職の効力は生じていないものとせざるをえない。よつて、結局申請人は被申請人の従業員たる地位を喪つていないものと解すべきである。 |