全 情 報

ID番号 04652
事件名 雇用契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 横須賀米海軍基地事件
争点
事案概要  駐留軍労働者が駐留軍の保安上危険であるとして解雇されその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1957年1月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (ワ) 7314 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集8巻1号140頁/時報111号17頁/訟務月報3巻3号55頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 今本件解雇について見ると、原告等が保安基準に該当しないということは駐留軍が自己の保安を期する余り、いわば疑心暗鬼を生じて客観的に保安に害のない原告等を主観的に害ありと誤認して解雇要求をしたもの従つて相当の理由のない解雇ということができるに止まり解雇の有効要件として客観的妥当性を必要としないこと前記のとおりである以上それ故に解雇は無効ということはできないわけであり、しかも本件においては保安解雇は単なる口実に止まり解雇の真の理由は害意に出て他の違法又は不当な目的を達するにあるとの点については、原告等の主張立証しないところであるから、結局本件解雇は信義則に違反するかどうかの困難な問題に絞られるわけである。一般に期間の定のない労働契約にあつては、当事者は相当長期に亘る契約の存続とこれにより労働者側においては将来の生活の方針を樹立し使用者においても不当の解雇による生活の脅威を防ぎ相共に企業の発展に協力し以つて労働契約の不安従つて社会不安の除去を期待するのが通例というべく、憲法その他の諸法令の意図するところも多くこれと隔るものとは考えられず労働契約における信義則の一般的基盤もここにあるといえるであろう。従つて当初の契約締結の趣旨に反し企業への寄与性に悖る不当の解雇は信義則に反するものであるか、その判定は具体的の契約に即し一率に論断できないことは勿論である。国は駐留軍労務者の雇用者であるけれども、行政協定その他の協定によつて使用者は米軍であり労働契約の締結解雇等の使用関係は挙げて軍の決するところにまかせられてある関係上その契約関係は日本国内における一般企業のそれと趣を異にするところあるのはやむを得ないというべく、従つて信義則の適用もその特殊性を度外視できない。即ち駐留軍は外国軍隊であつて、その任務の性質上高度の機密保持と自由の利害に鋭敏であることは諒解するに難くないので、その保安に害があると判断し不安の念を懐いた者を基地から排除するためその解雇を要求し、日本側もこの要求に応じて解雇の措置をとつたとしても、社会観念上右解雇の効力を否定しなければならない程不当なものとは認められないところである。
 更に駐留軍が高度の機密の保持を要する外国軍隊であるため、軍の保安上必要であるかどうかの認定については、軍の判断に重点を置かざるを得ないため、日本国も終局的には軍の要求に応じて、たとえ日本側において、解雇要求の理由を示されない場合でも、又当該労務者が保安基準に該当すると考えない場合でも必要な人事措置を採ることを約していること前記認定のとおりであつて、かかる協定を基本として締結されている原被告間の雇用関係においては、本件解雇が単に保安基準に該当しないとか或いは本件解雇の具体的理由を告知しないとかいうことだけで、その効力を否定しなければならない程原被告間の雇用契約の信義に反するものとは認められない。