全 情 報

ID番号 04654
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 三洋石綿工業事件
争点
事案概要  出張命令拒否を理由として出勤停止の懲戒処分を受けた者が、右出勤停止処分期間中に会社構内に立ち入り組合活動を行ない業務を妨害したとして懲戒解雇されその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1957年2月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和31年 (ヨ) 4001 
裁判結果 認容
出典 労働民例集8巻1号49頁/新聞46号13頁/労経速報233号2頁/労働法令通信10巻8号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 被申請人会社の就業規則第四十六条第五項に、職務上の指示命令に不当に反抗し職場の秩序を紊したときは、これを懲戒解雇に処する旨定められていることは前認定のとおりである。そして出勤停止は、職務上の命令に外ならないから出勤停止命令に違反し職務の秩序を紊しその情状重い場合は懲戒解雇に処されてもやむを得ない訳である。元来懲戒としてなさせる出勤停止は労働者の非難さるべき行動によつて、職場秩序が侵害されまたは侵害される具体的危険性がある場合に、労働者の就労を一時禁止することによつて、そのような行動が再び繰り返えされないよう反省を促すと共に他の従業員の戒となし、もつて職場秩序の回復または維持を目的とするものであり、その命令の作用は労働者が平素の作業場に現れ、従前の業務に従事することを禁止するものであつて、それ以上のものでもそれ以下のものでもない。従つてその法律上の効果はそれが正当のものである限り使用者は、雇用契約一方の当事者として、債権者遅滞危険負担の責を負わないで労働者の就労を一時拒否し得るという点にあるわけであつて、これを超えて、出勤停止により、雇用契約上の権利義務と関係のない事項について、労働者の行動を制約すること、例えば、自宅における謹慎、組合活動の禁止または会社構内への無条件立入禁止等を命じ得るものでないと解するのが相当である。(尤も、所有権または占有権に基く妨害の予防または排除として会社構内への立入禁止を請求しうることがあろうが、これは懲戒としての出勤停止の効力とは、別個の問題である。) 前認定の事実によれば、申請人は、出勤停止期間中、被申請人会社構内へ立入り、または組合活動をしたのであるが出勤停止が、これらの行為を禁止する効力を有しないこと前述のとおりであるから、これらの行為をもつて出勤停止命令に違反し、または反抗したということはできない。従つて、結局申請人に右懲戒解雇規定に該当する行為のあることについて疏明がないことに帰するが、使用者が就業規則に懲戒解雇条項を定める場合に、その規定に基いて、それに該当する行為ありとしてなされた解雇はその該当行為がないときは強行法規に違反し無効であると解すべきであるから本件解雇の意思表示は、無効であるといわなければならない。