ID番号 | : | 04655 |
事件名 | : | 仮処分異議申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 駐留軍池子火薬廠事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 米陸軍火薬廠で爆薬取扱工として勤務していた駐留軍労働者が右爆薬取扱工として勤務している全期間につき基本給与月額の三割に当たる特殊作業手当の支給が労働契約上定められているとして仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3章 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 特殊勤務手当 |
裁判年月日 | : | 1957年2月5日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和31年 (モ) 1682 |
裁判結果 | : | 取消・却下 |
出典 | : | 労働民例集8巻1号153頁/訟務月報3巻3号77頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権の発生-特殊勤務手当〕 駐留軍労務者が特別職公務員として国に雇用される場合、爆発物を取り扱う作業又はこれに近接してなす作業で危険を伴うものに対する特殊作業手当は当初三割以内と定められていたが(昭和二三、四、一〇、特調庶発第四四六号疏甲三)、後昭和二十六年五月九日右作業の内容と手当の支給率を被申請人主張のように細分し、その支給基準を明確にしたこと及び特別職公務員たる身分を失つても従来の給与基準がそのまま引き継がれたものであり、また前記法律第一七四号の施行後公務員たる身分を有しないで国に雇用される場合も、右と同様の支給基準によつたものであるので、これと異なる別段の契約のない限り右支給基準を労働条件とする労働契約が成立したものと推定すべきである。 ところが、申請人らが前記のとおり爆薬取扱工として勤務したときから昭和二十九年八月まで、前記支給標準表に定める基準によらないで、現実に爆発物を取り扱う場合に限らず被申請人主張の二、(1)、(ロ)の近接作業に従事した場合をも合せ、全勤務時間について、基本月額の三割に当る特殊作業手当の支給を受けたことは被申請人の認めるところであるから、別段の留保をなさず長期に亘つてその支払がなされた事跡に照し、被申請人において前記二、(1)、(ロ)の近接作業についても現実に爆発物を取り扱う(イ)の作業に従事したものとしてこれに三割の特殊作業手当を支給する意思を有し、その旨の労働契約が成立したように見えないではない。 しかしながら疏乙第五号証の記載、証人武田誠吾の証言と弁論の趣旨によれば、特殊作業手当の決定とその支給の経過は、米軍労務士官において基地における駐留軍労務者の作業を決定してこれを指揮し、現実に作業に従事した内容を所轄労務管理事務所に報告するものであつて、労管はその報告に基いて機械的に特殊作業手当を計算して支払うものであること、前記特労発第九七五号による指令がなされた昭和二十六年当時は朝鮮事変等によつて池子火薬廠における爆発物取扱作業は繁忙を極め、爆薬取扱工の勤務時間の大部分は現実に爆発物取扱作業によつてしめられていて、殊更に作業の内容を測定する実益がなかつたので、労務士官において全作業について(イ)の作業に従事した旨の報告をなし、これに基いて三割の支払がなされたこと、その後朝鮮事変の終了に伴い爆発物取扱作業の繁忙の程度が漸次減少したけれども、作業内容の測定の実益が少なかつたため、従前どおりの支給をしていたが、その後これを測定する実益が生じたので前記のように作業の測定を実施して(ロ)の作業を区別するに至つたことが認められる。右事実によれば、軍において作業の測定をしなかつたのは、単にその実施を延期していたという経過的便宜的措置に止まり、将来に亘つて(イ)、(ロ)の作業の区別をなさないで(ロ)の作業をも(イ)と同様の取扱をなす意図を有していたものと認めるのは困難であり、従つて労管においても将来全作業について三割の作業手当を支払う意思を有していたものということはできない。 以上の次第で、申請人らと被申請人との間に申請人らが池子火薬廠において爆薬取扱工として勤務する全時間について、基本給与月額の三割に相当する特殊作業手当を支給する労働契約が成立しているとの事実はこれを認むべき疏明のないことに帰するので、本案請求権の存在の疏明ない本件仮処分申請を失当として却下すべきである。 |