ID番号 | : | 04656 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大成丸等事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 漁船の乗組船員が未払賃金を請求したのに対し、右漁船によって漁業を経営し船員を雇っていた者が、乗組員によって生じた延縄流失による損害賠償債権でもって相殺する旨の主張をなしたことにつきその当否が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法24条1項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺 |
裁判年月日 | : | 1957年2月14日 |
裁判所名 | : | 仙台地気仙沼支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和30年 (ワ) 2 |
裁判結果 | : | 一部認容・棄却 |
出典 | : | 労働民例集8巻1号129頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕 原告Xを除くその余の原告等が延繩を流失し、被告が損害を蒙つたことは、さきに述べた通りである、思うに、船員が漁業に従事中に、使用者の漁具その他の資材を失い、使用者がこれによつて損害を蒙つた場合、船員が如何なる責任を負担するか、即ち、その喪失が船員の故意又は、時化等の不可抗力によつた場合は別として、その他の場合、過失に基く場合は、その程度を問わず、総て、船員が賠償の責を負うものとして、当直者(見張り)のみの負担とするか、船員全員の負担とするか、或は又、斯様な場合は、総て使用者の負担とする慣習ありと認むべきか、は漁業の特殊性に徴し、困難な問題である。 しかし、仮に、本件に於て、被告主張の如く、同原告等に損害賠償の義務ありとしても、次の理由によつて、被告の相殺の主張は、理由がない、 即ち、原告等の本訴で請求する債権は、労働賃金であり、原告等の給料は歩合によるものであるが、歩合給も賃金に他ならない。労働基準法第二四条第一項によれば、賃金は原則として、必ず金額を支払わなければならず、損害賠償債権を以てしても、相殺は許されず(昭和三一年一一月二日最高裁判所第二小法廷昭和二九年(オ)第三五三号事件判決参照。)、ただ、法令、労働協約等のある場合のみ許される訳である。本件に於ては、労働協約等の在つたことについては、主張も立証もないから、専ら、法令に相殺を許す旨の定めがあるか如何かによる。そしてA船は、船員法第一条第一項の三〇屯未満の漁船であることは、さきに述べた通りであるから、同船に乗船した原告等には、同法第三五条、第五八条第一、二項を適用することを得ないので、同船の給料については、労働基準法第二四条第一項の解釈上、相殺は許されない。これに反し、B船及びC船は、各三〇屯以上の漁船であること、さきに述べた通りであるので、両船の船員たる原告等一部の給料については船員法第三五条、第五八条第一、二項の適用を受け、給料の三分の一を超えない範囲で相殺が許される。しかし乍ら、両船の給料も歩合給であつて、乗船した原告等各自の給料、換言すれば、船員法第五八条第一項に規定する毎月の一定額の報酬は、各如何程であつたか、については、いずれもまた被告は、主張も立証もしていないので、これを知ることができない。従つて、基準額の判明しない限り、漫然、各原告の両船の請求額の三分の一について相殺を認むべきものではないから、結局、この分についても許し得ない。 |