ID番号 | : | 04657 |
事件名 | : | 雇用契約存続確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | トウキョウ・シビリアン・オープン・メス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 在日アメリカ民間人、軍人、軍属を会員として組織されているトウキョウ・シビリアン・オープン・メスに雇われている日本人従業員が解雇されその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 日米安保条約3条 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停 |
裁判年月日 | : | 1957年3月16日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和30年 (ワ) 6164 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集8巻2号243頁/時報110号1頁/タイムズ71号79頁/裁判所時報229号61頁/新聞51号2頁/ジュリスト132号78頁/ジュリスト135号119頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇と争訟〕 原告ら提出のトウキヨウ・シビリアン・オープン・メス定款(Constitution Tokyo Civilian Open mess)と当裁判所のなした調査嘱託に対する外務省条約局長の回答書とを綜合すると、被告は米合衆国の陸軍規則(Army Regulations No.210-50)に準拠して設立された同規則にいわゆる歳出外資金による機関であること、右規則においては明文をもつて歳出外資金による機関は「連邦政府機関(instrumentalities of the Federal Government)であり、且つそのようなものとして連邦憲法及び法令に基いて連邦政府の官庁及び機関(The departments and agencies of the Federal Government)に与えられるすべての免除及び特権を享有する」と規定されていること並びに被告と同じく歳出外資金による機関であるところの米軍ピーエツクスにつき米合衆国連邦最高裁判所は政府の腕(arms of the government)、陸軍省の不可分の一部(integral parts of the War Department)であると判断し、同国の地方裁判所も同じく歳出外資金による機関たる将校クラブにつき政府機関(instrumentality of the government)であると判断していることが認められ、右の諸事実によれば、米合衆国においては被告はその国家機関として承認されていることが明らかである。而して、米合衆国においてかかる承認をえているということで、直ちに我が国の裁判所がこれを米合衆国国家機関として認めねばならないということでは勿論ないが、一国の法制上これが当該国の国家機関として承認されている場合には、特段の事情のない限り、我が国の裁判所においてもこれを当該国の国家機関として取扱うことが国際礼譲からしても相当である。そして被告が国家権力を行使する米合衆国政府ないし米合衆国軍隊の本来的構成要素ではないとの事実及び被告がその定款の定めによつて運営されている事実などでは、いまだ右の如き米合衆国内の取扱いにも拘らずこれを国家機関でないと判断すべき別段の事情となすに足りない。 右の如き外国国家機関に対する我が国裁判所の裁判権の有無は当該国家自体に対する裁判権の有無に帰着する。而して、国家は一般には外国の裁判権に服さず、ただそれが自発的に進んで外国裁判所の裁判権に服する場合のみを例外とし、かかる例外は条約を以つてこれを定めるか、若くは特に特定の訴訟事件について当該国家が特定の外国に対し、その裁判権に服する旨を表示したような場合に認むべきであるところ、日本国の民事裁判権に関して定めている日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定第十八条には合衆国自体ないしその機関が日本国の裁判権に服することを承認した趣旨を見出すことができないのをはじめとし、その他の日米間の条約などにもかかる事跡を見出すことはできない。もつとも、合衆国の軍当局が公認し、且つ規制する歳出外資金による機関に雇用される労働者については、行政協定第十五条第四項において「別に相互に合意される場合を除く外、賃金及び諸手当に関する条件のような雇用及び労働の条件労働者保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は、日本国の法令で定めるところによらなければならない。」とされているので、これを根拠にかかる機関と日本人労働者との雇用関係に関する争訟については日本国の裁判権を承認したのではないかとの説も考え得るが、右条項は文理上雇用関係に関する実体的な権利義務についての取り極めに止まると解せられ、その裁判権についてまで取り極めた趣旨とは到底解せられない。 よつて、被告に対する本件訴は裁判権がないものとして却下すべきである。 |