全 情 報

ID番号 04660
事件名 遺族補償金請求事件
いわゆる事件名 松本製菓工場事件
争点
事案概要  商品配達のため使用者に無断でオート三輪車を運転していた際の死亡事故につき業務上か否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働基準法78条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 遺族補償(給付)
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務中、業務の概念
裁判年月日 1957年5月6日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (ワ) 1915 
裁判結果 認容
出典 下級民集8巻5号856頁/労働民例集8巻3号346頁/時報118号17頁/法曹新聞121号16頁/新聞57号13頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務中、業務の概念〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限〕
 亡Aは被告に使用されて配達等の業務に従事していたものであるが、成立に争のない甲第一号証中Bに対する聴取書、抜萃並に証人Bの証言によれば本件衝突事故当日Aは取引先である横浜のC会社より註文の電話があり、又その他二、三ケ所よりの註文に応じ、その配達のためビスケット約三十罐をオート三輪車に積み、上野の営業所に立寄つた後、事故現場方面に向つたものであることが認められる。してみれば右配達途上において衝突による負傷のためのAの死亡は労働基準法第七十九条の業務上死亡した場合に該当するものといわなければならない。尤も乙第四号証並に被告本人訊問の結果によれば、Aの死亡当日オート三輪車による配達は被告の指図によるものではなく被告の知らぬ間になされたものであることは認められるが、同日の配達行為が使用者に無断でなされたものであつても、Aの担当業務の内容上、通常顧客の註文に応じ、商品を被告の営業の為め配達運搬する行為は使用者の具体的な指揮命令の有無に拘らず、業務と解するに支障なく、従つてAの配達に従事中の事故による死亡は、業務上の死亡と解するのが相当である。
 被告は本件Aの衝突事故はA自身の過失によるものであるから被告に遺族補償の義務はないというけれども、労働基準法による遺族補償は業務上死亡した労働者の収入に依拠していた遺族の生活を保護するための規定であり、原告主張のとおり、同法第七十八条において休業補償、障害補償に関し、労働者に重大な過失のあつた場合の例外を明文を以て規定しているのに反し、遺族補償についてその規定のないことを対比してみれば、亡Aの過失の有無は被告の遺族補償の責任について消長を来すものではない。