全 情 報

ID番号 04667
事件名 雇用関係存続確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 駐留軍神戸補給基地厚生修理部隊事件
争点
事案概要  駐留軍の神戸補給基地厚生修理部に勤務する副管理人が肺結核を理由として駐留軍人事部から解雇通告を受けたことにつきその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1957年8月29日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和30年 (ネ) 1526 
裁判結果 取消・棄却
出典 労働民例集8巻5号792頁/訟務月報3巻10号39頁
審級関係 一審/神戸地/昭30.11. 7/昭和29年(ワ)442号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 昭和二十六年七月一日締結された前記日米労務基本契約第七条に契約担当官において契約者が提供したある人物を引続き雇用することが合衆国政府の利益に反すると認める場合には即時その職を免じスケジュールAの規定によりその雇用(エンプロイメント)を終止する。と定められていることが成立に争ない乙第二号証の一、二により明らかであつて、右条項は単に軍事上の目的のためにする保安処分に限定して解すべき理由がなく、伝染病、結核等の病疫の予防駆除を目的とする衛生管理の必要上からも右保安処分を行い得るものと解すべきで、国際協約又は日本国法令により駐留軍労務者の保護されている労働条件にかかわらず、雇用終止を行い得る権能の範囲及び行使の条件は前記日米労務基本契約第七条及び日米安全保障条約第三条に基く行政協定第三条に規定されているが、特に駐留軍が衛生管理権を行う方式について軍司令部から極東各軍司令官宛に発せられた昭和二十八年五月二十九日付駐留軍施設及び地区内における最終医学的権限と題する指令第五項第六項に駐留軍係官が駐留軍医学的施設において駐留軍に使用されている日本人労務者に日本国法令が禁じていない身体検査を行うことを要求する権限を有すること、日本人労務者が右身体検査を拒否するか或は駐留軍による身体検査の結果伝染病に罹つているか、或は他の者に害を及ぼすが如き医学的条件を有しているものと認められた場合には駐留軍係官はかかる労務者の駐留軍施設にはいることを拒否する最終的権限を有すると指示したことが成立に争ない乙第四号証の一乃至三により認められる。駐留軍が基地内において日本人医師の診断に疑を有するとき、その使用する日本人労務者の右危険な病気の有無につき軍医学施設により最終医学的判断をする権能を有することは右基地内衛生管理が駐留軍の固有独立した権利であることの当然の帰結であつて、かような病気に罹患したもの罹患している疑のある日本人労務者に対し右医学的判断のため身体検査を要求することは行政協定第三条により認められた権能の適当範囲を超越するものではなく、契約により駐留軍の基地内においてその指揮管理の下に労務に服することを約諾せる日本人労務者は駐留軍の右衛生管理に協力し身体検査に応ずべき義務あるものといわねばならない。しかしながら日本人労務者が右最終医学的権能のために前記取扱手続規程により保障された利益を失うべき理由がないから、身体検査の結果他人に危険を及ぼすべき医学的条件にあることが証明されたときでも解雇は右手続規程又は労働基準法第一九条の定めるところに準じてなさるべきことは勿論である。日本人労務者が理由なく身体検査を拒否し駐留軍の正当な衛生管理を妨げたとき駐留軍係官において前記労務基本契約第七条によりその労務者の雇用を終止せしめ得ることは疑がないけれども右雇用終止の処分により当然に解雇の効力が生ずるものと解することはできない。けだし基地管理権そのものは駐留軍固有の権能であつてその行使のために控訴人から包括的に委任又は受権せらるべき解雇権が日本国法令において規定されていないからである。従つて駐留軍係官が身体検査拒否を理由として解雇するには労働基準法第二〇条第一項後段に該当する場合に限り其の旨告知しなければならないものと解するのを相当とする。